結論:相続した実家の売却なら、税金が丸ごとゼロになる可能性があります
親から相続した空き家(実家)を売るとき、一定の要件を満たせば譲渡益(売却の利益)から最大3,000万円を控除できます。これが「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」、通称空き家特例です(出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。
効果を数字で見てみます。昭和50年建築の実家を相続し、2,500万円で売却したケースです。親の代の契約書がなく取得費は概算5%(125万円)、譲渡費用80万円、所有期間は長期(税率20.315%)とします。
- 特例なし:譲渡所得は2,500万円−125万円−80万円=2,295万円。税額は約466.2万円
- 空き家特例あり:2,295万円−3,000万円はマイナスのため課税譲渡所得0円。税額は0円
差は約466万円。相続空き家の売却で、これほど税額を左右する制度は他にありません。ただし要件が細かく、適用期限は2027年(令和9年)12月31日の譲渡までです。実際の売却では、「要件を知らずに先に貸してしまった」「3年の期限を過ぎてしまった」という後悔も珍しくありません。売る前に、この記事で要件を順番に確認してください。
空き家特例とはどんな制度か
正式には租税特別措置法に基づく特例で、国税庁タックスアンサーではNo.3306に整理されています。旧耐震基準(昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた基準)の古い空き家が放置されるのを防ぐため、相続人が早めに売却(耐震化または取壊しを伴う)することを税制で後押しする制度です。
対象期間は2016年(平成28年)4月1日から2027年(令和9年)12月31日までの譲渡。当初の期限から延長されて現在の期限になっていますが、この先さらに延長される保証はありません。旧耐震の実家を相続していて売却を迷っている方は、期限から逆算して動くことをおすすめします。
適用条件の全体像:家屋の条件と売り方の条件
要件は「対象になる家屋か」と「売り方・タイミング」の2段階で確認するとわかりやすいです。
| 区分 | 主な要件 |
|---|---|
| 家屋の建築時期 | 昭和56年5月31日以前に建築されたこと(旧耐震基準) |
| 家屋の種類 | 区分所有建物(分譲マンション等)でないこと |
| 相続直前の使われ方 | 被相続人(亡くなった親など)が一人で居住していたこと |
| 相続後の使われ方 | 相続から売却まで事業・貸付け・居住に使っていないこと(空き家のまま) |
| 売却の期限 | 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日まで |
| 売却価格 | 1億円以下であること(他の相続人の売却分と合算して判定) |
| 売却先 | 親子や夫婦など特別の関係がある人への売却でないこと |
「一人暮らし」の要件について補足すると、被相続人が要介護認定などを受けて老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件を満たせば「相続直前まで居住していた」ものとして扱われる取り扱いがあります(2019年4月1日以後の譲渡から)。親が晩年施設に入っていたケースでもあきらめず、該当するか確認しましょう。
また、区分所有建物が除外されている点は重要です。分譲マンションの相続にはこの特例は使えません。マンションを含む相続不動産の税金全般は、状況により使える制度が変わります。
令和6年からの緩和:買主側の耐震改修・取壊しでもOKに
2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡から、実務上とても大きい緩和が2つ入りました。
1つ目は、耐震改修・取壊しのタイミングの緩和です。 従来は、売主が引渡しまでに家屋を耐震基準に適合させるか、更地にしてから売る必要がありました。改正後は、譲渡の翌年2月15日までに家屋が耐震基準に適合するか、全部が取り壊されていれば適用できます。つまり「古家付きのまま現状で売り、買主が解体する」契約でも、期日までに工事が完了すれば特例を使えるようになりました。売主が解体費用を先に負担しなくてよくなったのは大きな前進です。ただし、翌年2月15日までに工事が完了しなければ適用できなくなるため、売買契約書に取壊し(または耐震改修)の実施と期限を明記し、完了を確認できる段取りにしておくことが実務上の生命線です。
2つ目は、控除額の調整です。 同じく2024年1月1日以後の譲渡から、その家屋・敷地を取得した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円になります(2人以下なら1人あたり3,000万円のまま)。相続人が多い場合は、遺産分割の段階で誰が取得して売るかによって控除の合計額が変わるため、分け方の設計にも関わります。
必要書類:市区町村の「確認書」が最大の関門です
空き家特例は、確定申告をしなければ適用されません。税額が0円になる場合でも申告は必須です。主な添付書類は次のとおりです。
- 被相続人居住用家屋等確認書:家屋の所在地の市区町村が交付する書類。被相続人が一人で住んでいたこと・相続後に空き家だったことなどを自治体が確認するもので、申請には電気・ガスの閉栓証明や水道の使用廃止の資料、売買契約書の写しなどが求められます。交付まで日数がかかるため、売却が決まったら早めに申請してください
- 登記事項証明書など(相続で取得したこと・建築年月日・区分所有でないことを示すもの)
- 売買契約書の写しなど(売却価格が1億円以下であることを示すもの)
- 耐震基準に適合させて売る場合は耐震基準適合証明書等、取壊しの場合は取壊し後の状況がわかる書類
自治体によって確認書の申請様式や必要資料が少し異なります。所在地の市区町村のホームページで「空き家 3,000万円控除 確認書」と探すか、空き家対策の担当課に問い合わせましょう。
取得費加算の特例とは併用できません:どちらが得か
相続税を納めた人が相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却すると、相続税額の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります(国税庁タックスアンサー No.3267)。ただし、同じ不動産について空き家特例と取得費加算は併用できず、どちらか一方の選択になります。
目安としては、控除額がそのまま3,000万円(または2,000万円)の空き家特例の方が有利になるケースが多数派です。取得費加算で上乗せできる金額は納めた相続税のうちその不動産に対応する部分に限られるため、加算額が3,000万円を超えるような相続税の大きいケースでなければ、空き家特例が優勢です。ただし譲渡益の規模や相続税額によって逆転はあり得ますし、選択を誤ると差額は取り戻せません。両方の試算を並べてから申告することが大切で、判断に迷う場合は税理士への相談をおすすめします。
なお、そもそも取得費がいくらかを確認する作業も重要です。親の購入額がわかれば譲渡益自体が小さくなります。取得費がわからない場合の対処法もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 相続した後、一時的に人に貸してしまいました。特例は使えますか?
使えません。相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住のいずれにも使っていないことが要件です。短期間の賃貸でも要件を外れます。相続空き家は「貸す前に、売るかどうかを決める」が鉄則です。
Q. 分譲マンションの実家にも使えますか?
使えません。区分所有建物として登記されている建物は対象外です。マンションの場合は、被相続人の居住用財産としての他の取り扱いや取得費加算の特例など、別の選択肢を検討します。
Q. 兄弟3人で相続して売る場合、控除は合計いくらですか?
2024年以降の譲渡で、家屋・敷地を取得した相続人が3人以上の場合は1人あたり2,000万円です。3人がそれぞれ譲渡益から最大2,000万円を控除できます。2人以下なら1人あたり3,000万円です。
Q. 売却価格が1億円を超えそうです。少しでも超えるとダメですか?
対象の家屋・敷地の売却対価が合計で1億円を超えると、特例は一切適用できません。共有で相続した他の相続人の売却分も合算して判定されるため、境界ぎりぎりの価格帯では契約前に必ず確認してください。
Q. 実家の売却を3年ギリギリまで待ってもいいですか?
制度上は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(かつ2027年12月31日まで)ですが、実務上はおすすめしません。市区町村の確認書取得や買主探し、取壊しの段取りに時間がかかるうえ、空き家は傷むほど価格が下がる傾向があるためです。売る方針なら早めに動く方が、税制面でも価格面でも有利になりやすいです。
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※税額は個別の事情で変わります。最終判断は税理士・税務署にご確認ください。
