結論:精算は「商慣習」であり、起算日しだいで受け取る金額が数万円変わります
不動産を売却した年の固定資産税は、引渡日を境に売主と買主で日割り精算するのが不動産取引の慣習です。ただし最初に3つ、大事なことをお伝えします。
- 日割り精算は法律の義務ではなく、あくまで当事者間の合意(商慣習)です。精算の起点となる「起算日」も法律では決まっていません
- 起算日は関東で1月1日、関西で4月1日とする慣習が一般的で、同じ物件・同じ引渡日でも受け取る精算金が変わります(後述の計算例では約3万円の差が出ます)
- 売主が受け取った精算金は、税務上は税金の立替払いではなく売却代金の一部として譲渡所得の収入金額に算入されます(出典: 国税庁 質疑応答事例 未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合)
関西の取引では4月1日起算が標準です。一方、ネットの計算例は1月1日起算で書かれていることが多く、「思っていた精算金と違う」という混乱が起きがちです。この記事では両方の計算例を並べて、仕組みから税務上の扱いまで整理します。
なぜ精算するのか:固定資産税の納税義務者は「1月1日時点の所有者」だから
固定資産税と都市計画税は、その年の1月1日(賦課期日)時点の所有者に対して1年分が課税されます。年の途中で売却しても、市区町村への納税義務者は1月1日時点の所有者、つまり売主のままです。役所が日割りで買主に請求し直してくれることはありません。
そのままでは、たとえば9月に引き渡した場合、売主は自分が所有していない9月以降の分まで負担することになります。この不公平を当事者間で調整するのが日割り精算です。引渡日以降の日数分を買主が「未経過固定資産税等相当額(精算金)」として売主に支払い、決済時に売買代金と一緒に受け渡すのが通常の流れです。
つまり精算金は、役所に対する税金のやりとりではなく、売主と買主の間のお金の調整です。この理解が、後述の税務上の扱いにつながります。
起算日はなぜ2種類あるのか:関東の1月1日と関西の4月1日
日割りの起点となる起算日には、2つの考え方があります。
- 1月1日起算(関東で主流):固定資産税が「1月1日時点の所有者」に課税されることから、暦年(1月1日〜12月31日)で区切る考え方
- 4月1日起算(関西で主流):固定資産税が「その年度(4月〜翌3月)の税金」であることから、年度(4月1日〜翌年3月31日)で区切る考え方
どちらが正しいという決まりはなく、売買契約書にどう書くかがすべてです。契約書の「公租公課の分担」条項に起算日が明記されているかを、契約前に必ず確認してください。
計算例:同じ条件でも起算日で精算金が変わります
年税額(固定資産税+都市計画税)12万円、引渡日2026年9月1日(引渡日当日から買主負担とする契約)で、両方の起算日を計算します。
1月1日起算(関東式)の場合
- 売主負担:1月1日〜8月31日の243日分
- 買主負担:9月1日〜12月31日の122日分
- 買主が売主に支払う精算金:12万円×122日÷365日=40,109円(円未満切捨て)
4月1日起算(関西式)の場合
- 売主負担:4月1日〜8月31日の153日分
- 買主負担:9月1日〜2027年3月31日の212日分
- 買主が売主に支払う精算金:12万円×212日÷365日=69,698円(円未満切捨て)
| 起算日 | 売主負担日数 | 買主負担日数 | 精算金(買主→売主) |
|---|---|---|---|
| 1月1日起算(関東) | 243日 | 122日 | 40,109円 |
| 4月1日起算(関西) | 153日 | 212日 | 69,698円 |
同じ物件・同じ引渡日でも、精算金は約3万円違います。4月1日起算の方が売主の受取額は大きくなります(引渡日が1月〜3月の場合は逆に、4月1日起算では前年度分の精算が終わっているため扱いが変わります)。端数処理(円未満の切捨て・四捨五入)や、うるう年の日数(366日)をどうするかも契約書の記載に従います。
精算金の税務上の扱い:「売却代金の一部」として課税対象になります
売主が受け取る固定資産税の精算金は、名前こそ「税金の精算」ですが、税務上は土地建物の譲渡対価の一部です。国税庁の質疑応答事例でも、未経過固定資産税等相当額は譲渡所得の収入金額に算入すると整理されています。
実務上の影響は次のとおりです。
- 譲渡所得の計算では、売買代金+固定資産税精算金を収入金額として申告します。精算金を収入から除いて申告すると過少申告になります
- 3,000万円特別控除で税額が0円になる方には実害はほぼありませんが、課税される売却では精算金の分だけ譲渡所得が増えます
- 買主側では、支払った精算金は税金ではなく取得費(購入代金の一部)になります。買主が事業者から建物を買う場合は、建物分の精算金に消費税が上乗せされることもあります
「税金を立て替えてもらっただけなのに課税されるのは変な感じがする」とよく言われますが、法律上の納税義務者があくまで売主である以上、買主から受け取るお金は代金の上乗せと扱われる、という理屈です。譲渡所得全体の申告方法は個別の事情で変わるため、課税が見込まれる方は税理士に確認してください。
翌年の納付書はどちらに届く?年をまたぐ売却の注意点
精算とセットで押さえたいのが「翌年分は誰が払うのか」です。原則はシンプルで、翌年1月1日時点の所有者に翌年度分が課税されます。2026年9月に引き渡せば、2027年度分の納税義務者は買主で、売主に納付書は届きません。
注意が必要なのは年末年始をまたぐ取引です。たとえば12月に売買契約を結び、引渡し(所有権移転)が翌年1月にずれ込むと、1月1日時点の所有者はまだ売主のため、翌年度分の納付書も売主に届きます。この場合は翌年度分もまるごと精算対象にする(買主が全額負担する)ことを契約書で定めておかないと、売主が住んでもいない家の税金を1年分払う事態になりかねません。登記の時期と賦課期日の関係は見落としやすいポイントです。
なお、都市計画税(市街化区域内の不動産にかかる税金)も固定資産税と同じ賦課期日・同じ仕組みなので、精算も固定資産税と合算して同じ起算日・同じ日割りで行うのが通常です。
売却時の他の費用と精算の全体像はマンション売却の諸費用一覧を、決済当日までの段取りは不動産売却の流れ完全ガイドをご覧ください。
よくある質問
Q. 買主が精算に応じてくれない場合、請求できますか?
日割り精算は法律上の義務ではないため、契約書に定めがなければ当然には請求できません。逆にいえば、契約書に「公租公課の分担」条項と起算日を入れておけば確実です。仲介会社が入る取引では精算条項を入れるのが標準的な実務です。
Q. 精算金に消費税はかかりますか?
売主が個人でマイホームを売る場合は、そもそも消費税の課税事業者でないため通常かかりません。売主が課税事業者の場合、建物分の精算金は建物の譲渡対価の一部として消費税の課税対象になります。土地分は非課税です。
Q. 納付書がまだ届いていない時期(4〜5月引渡し)はどう精算しますか?
その年の税額が確定していない場合は、前年の税額をもとに仮精算し、納付書到達後に差額を再精算する方法と、前年税額で精算して再精算しない方法があります。どちらにするかを契約書に明記しておくのがトラブル防止のポイントです。3年に一度の評価替えの年は税額が変わりやすいため特に注意してください。
Q. 起算日はどちらか有利な方を主張できますか?
契約自由の原則上、当事者が合意すればどちらでも構いません。ただ実務上は地域の慣習(関東1月1日・関西4月1日)に沿うのが一般的で、起算日だけを交渉材料にすることはあまりありません。金額差が気になる場合は、契約前に両方の試算を仲介会社に出してもらいましょう。
Q. 精算した年の固定資産税は、譲渡費用として引けますか?
引けません。固定資産税は所有していること自体にかかる税金で、売却のために直接かかった費用(譲渡費用)には該当しないというのが原則的な取り扱いです。受け取った精算金を収入に含める一方で、支払った固定資産税は引けない点は誤解が多いのでご注意ください。
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※税額は個別の事情で変わります。最終判断は税理士・税務署にご確認ください。
