「修理せず渡す」と「引渡し後に責任を負わない」は別です
「現況有姿で売れば、後から修理費を請求されないのでは」。ここは分けて考える必要があります。現況有姿は今の状態で引き渡す趣旨の言葉ですが、それだけで売主の責任すべてが消えるとは限りません。
たとえば、給湯器が壊れていることを双方で確認し、交換せずに渡す合意をする場合です。何も説明せず、使える給湯器があるつもりで買った場合とは、契約の前提が違います。
だから見るべきものは、言葉の有無より「どの状態で渡す合意なのか」です。この記事では、個人が事業としてではなく中古の自宅を売る場合を中心に整理します。
契約不適合責任は、約束した内容との違いが出発点です
民法562条は、引き渡した物が種類・品質・数量について契約内容に合わないとき、買主が修補などを請求できると定めています。これが契約不適合責任を考える出発点です。出典:民法562条・572条。
「古い家だから傷みがある」と「その傷みをどのように合意したか」は別です。現況有姿の一文だけで、雨漏りも設備故障も全部買主負担と決めつけないようにします。
| 契約で決めること | 確認する内容 |
|---|---|
| 引き渡す状態 | 修理する箇所、修理しない箇所、設備の状態 |
| 責任の範囲 | どの不適合について責任を負うか、免除するか |
| 期間と連絡方法 | いつまでに、どの方法で通知する条件か |
| 家財・設備の処分 | 残す物、撤去する物、費用を負担する人 |
つまり、現況有姿の条項と免責特約は役割が違います。免責を合意する場合も、対象や例外を契約書で確かめます。責任の全体像は売却時の告知義務とあわせて確認してください。
知っている不具合は、免責特約があっても伝えます
民法572条は、責任を負わない特約をしても、知りながら告げなかった事実については責任を免れないと定めています。「免責だから言わなくてよい」とはなりません。
雨漏りを修理したことがあるなら、発生箇所、時期、工事内容、修理後に確認した状況を整理します。今は漏れていないとしても、過去の事実と現在の状況を分けて伝えます。
また、使っていない設備は「故障なし」と書く前に、動作を確認したかを振り返ります。分からないことを正常と決めず、未確認であることも含めて担当会社と書類を整えます。
国土交通省は、写真や告知書などで双方が状況を確認し、価格や責任の扱いに反映した事項を契約関係の書面に記載できるとしています。出典:宅建業法の解釈・運用の考え方。
家具を残す約束と、壊れた設備の扱いも書面にします
「そのままでよい」という口約束は、壁や床の傷みを指すのか、家具まで含むのか曖昧です。残す物は部屋と品目で特定し、買主の希望と照合します。
| 仮の整理例 | 契約前に決めること |
|---|---|
| 故障中の給湯器 | 交換せずに渡すことと、故障の内容 |
| 寝室のエアコン | 残すか撤去するか、確認できた動作状況 |
| 食器棚と机 | 買主が引き取る品目か、売主が処分する物か |
だから、「家具一式」のような表現だけに頼らず、一覧や写真を付けます。引越し直前に残す物を変える場合も、勝手に置いていかず、変更の合意を残してください。
修理して売るかも、価格だけで判断しません。たとえば現状の査定が2,000万円、修理後が2,080万円、修理費が100万円という仮定なら、修理費を引くと1,980万円です。増える価格80万円より費用100万円が大きく、差は20万円です。
これは実勢価格や工事相場ではありません。成約額は査定どおりとは限らないため、見積もりと査定の根拠をそろえて比較します。
【注意】業者売主などには、免責できる範囲の制限があります
不動産会社(宅建業者)自身が売主となり、買主が宅建業者でない取引では、宅建業法40条が適用されます。同条は責任期間を引渡しから2年以上とする特約を除き、民法566条より買主に不利な特約を禁じています。出典:宅建業法40条・78条。
個人の自宅売却を業者が仲介するだけなら、「業者自身が売主」とは違います。ただし個人名義でも事業として売る場合などは、前提を確かめる必要があります。
事業者と消費者の取引には、消費者契約法による免責条項の制限もあります。適用や例外を含めた個別の有効性は、仲介会社や弁護士に確認してください。出典:消費者契約法8条。
現況有姿を選ぶなら、現況と負担を先に具体化します
現況有姿は、責任を消す言葉ではありません。
知っている不具合、残す物、修理する物を一覧にします。その一覧と、契約書の責任範囲・期限・免責条項が食い違っていないかを確認しましょう。
契約前の書類は売却に必要な書類一覧、続けて読むなら築古マンションの売り方です。
よくある質問
Q. 現状渡しと現況有姿は違いますか?
似た趣旨で使われますが、呼び方だけでは負担範囲は決まりません。契約書の具体的な条件を確認します。
Q. 内覧で見えた不具合なら説明不要ですか?
見えたはず、と決めつけないでください。どの状態を双方が確認し、どの負担で引き渡すかを記録します。
Q. 免責特約があれば請求を無視してよいですか?
いいえ。対象の不具合、告知内容、条項の有効性を確認する必要があります。契約書や報告書を持って相談してください。

