結論:原則は救済なし。ただしマイホームなら2つの特例で「税金が戻ってくる」ことがあります
買った値段より安くしか売れなかった場合、まず安心していただきたいのは、売却損なら譲渡所得税・住民税は1円もかからないことです。税金は譲渡益に対してかかるためです。
その上で「損した分、給与などの税金を減らせないか」という点はどうか。答えは、原則としては減らせません。土地・建物の譲渡損失は、給与所得や事業所得と相殺(損益通算)できないのが原則です(出典: 国税庁 No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合)。
ただし、マイホームの売却に限って例外が2つ用意されています。「買い換えた場合の譲渡損失の特例」と「住宅ローンが残っている場合(オーバーローン)の譲渡損失の特例」です。どちらも損失を給与所得などと通算でき、引ききれない分は翌年以後3年間繰り越せるため、会社員なら源泉徴収された所得税の還付という形で数十万円単位のお金が戻るケースがあります。
原則:不動産の売却損は他の所得と相殺できません
所得税には、赤字の所得を黒字の所得とぶつけて課税所得を減らす「損益通算」という仕組みがあります(出典: 国税庁 No.2250 損益通算)。しかし土地・建物の譲渡所得は分離課税(給与などとは別枠で計算する方式)であり、その損失は次の扱いになります。
- 同じ年に別の土地・建物の譲渡益があれば、その内部でのみ相殺できる
- 給与所得・事業所得など他の所得とは通算できない
- 翌年への繰越も原則なし
たとえば投資用マンションを300万円損して売っても、給与の税金は1円も安くなりません。この原則を踏まえた上で、マイホームだけに認められた次の2つの特例を見ていきます。
特例1:マイホームを買い換えた場合の譲渡損失(No.3370)
自宅を売って損が出たが、新しい自宅に買い換えた、というケースの特例です(出典: 国税庁 No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき)。損失の全額を他の所得と損益通算でき、引ききれない分は翌年以後3年間繰り越せます。
ポイントは「新居に一定のローンを組むこと」が条件になっている点です。売った家のローン残高は問われません。
特例2:住宅ローンが残っている場合の譲渡損失(No.3390・オーバーローン)
買い換えずに(賃貸に移る・実家に戻るなど)自宅を手放す場合の特例です(出典: 国税庁 No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき)。売却価格が住宅ローン残高を下回る、いわゆるオーバーローンの売却が対象です。
こちらは損失の全額ではなく、「売買契約日の前日のローン残高 − 売却価格」が通算できる上限になります。残債を売却代金で消しきれない厳しい状況の人を救済する制度、という位置づけです。
2つの特例の要件比較表
| 項目 | 買換えの特例(No.3370) | オーバーローンの特例(No.3390) |
|---|---|---|
| 対象 | 自宅を売って新たな自宅を買う人 | 自宅を売るがローンが残る人(買換え不要) |
| 売る家の所有期間 | 譲渡年の1月1日で5年超 | 譲渡年の1月1日で5年超 |
| 売る家の敷地 | 500平方メートル以下の部分が対象 | 制限なし |
| 売る家のローン | 不要 | 契約日前日に償還期間10年以上の残高があること |
| 新居の要件 | 床面積50平方メートル以上・償還期間10年以上のローンで取得・翌年末までに入居見込み | 不要 |
| 通算できる損失額 | 譲渡損失の全額 | ローン残高−売却価格が上限 |
| 繰越期間 | 翌年以後3年間 | 翌年以後3年間 |
| 繰越年の所得制限 | 合計所得金額3,000万円以下の年のみ | 合計所得金額3,000万円以下の年のみ |
| 親族への売却 | 適用外 | 適用外 |
どちらも「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」の売却が対象で、売った年の前年・前々年に3,000万円特別控除などの居住用特例を使っていないことが条件です。また、買換えの特例で新居の住宅ローン控除との関係を見ると、こちらは併用が可能です(3,000万円特別控除と住宅ローン控除の関係とは扱いが異なります)。
繰越控除のイメージ:損失は最長4年分の所得とぶつけられます
売却した年に通算し、消えなかった損失を翌年から3年間繰り越す。つまり最大で「売却年+3年=4年分」の所得と相殺できます。
計算例:譲渡損失1,800万円・給与所得700万円の会社員
2015年に4,900万円で購入した自宅を、転居のため2026年に2,600万円で売却し、新居をローンで購入したケースです(買換えの特例を適用)。
- 譲渡損失 = 2,600万円 −(取得費4,250万円+譲渡費用150万円)= ▲1,800万円
- 本人の給与所得は毎年700万円とします
年ごとの流れは次のようになります。
- 売却年(2026年分): 給与所得700万円 − 損失1,800万円 → 課税所得0円。給与から源泉徴収されていた所得税が確定申告でほぼ全額還付。残り▲1,100万円を繰越
- 1年目(2027年分): 給与所得700万円 − 繰越損失1,100万円 → 課税所得0円。残り▲400万円を繰越
- 2年目(2028年分): 給与所得700万円 − 繰越損失400万円 → 課税所得300万円(残損失は消化済み)
- 3年目(2029年分): 繰越なし。通常の課税に戻る
所得税だけでなく翌年度の住民税も下がるため、この例では3年間で合計300万円前後の税負担が軽くなるイメージです(実際の還付額は扶養控除など他の所得控除の状況で変わります。個別の金額は税理士・税務署にご確認ください)。
損失が出た年も確定申告が必要です。しかも「毎年連続で」
この特例は自動では適用されません。注意点は3つあります。
- 売却した翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)で、譲渡損失の計算明細書などを添えて申告する
- 繰越控除を受ける年は、その後も連続して確定申告が必要(1年でも申告が抜けると以後の繰越が使えなくなります)
- オーバーローンの特例では、売買契約日前日のローン残高証明書が必要
また「そもそも損しているかどうか」の判定でも、取得費の証明(購入時の売買契約書)が重要です。契約書がないと取得費が売却価格の5%扱いになり、実際は損なのに帳簿上は利益が出たことになってしまう、という逆転現象すら起こり得ます。費用と取得費の全体像はマンション売却の諸費用 全一覧を、税金計算の基本は不動産売却の税金 完全ガイドをご覧ください。
よくある質問
Q. 投資用マンションの売却損には特例はありませんか?
ありません。2つの特例はいずれも居住用財産(マイホーム)限定です。投資用物件の損失は、同じ年の他の不動産売却益と相殺することだけができます。
Q. 売却損が出た場合、確定申告しないとどうなりますか?
損失だけなら申告義務はなく、罰則もありません。ただし申告しなければ損益通算も繰越控除も受けられず、還付金を放棄することになります。給与所得700万円なら初年度だけで数十万円規模の差になり得るため、要件に当てはまる方は申告を強くおすすめします。
Q. 住み替え先が賃貸でも使えますか?
賃貸に移る場合は買換えの特例(No.3370)は使えませんが、売った家がオーバーローンならNo.3390の特例が使える可能性があります。新居の購入が条件になるのは買換えの特例だけです。
Q. 所有5年以下の家を損して売った場合は?
どちらの特例も「譲渡年の1月1日時点で所有期間5年超」が条件のため、5年以下では使えません。売却を急がない事情なら、年をまたいで長期になるタイミングを待つのも選択肢です。
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※税額は個別の事情で変わります。最終判断は税理士・税務署にご確認ください。
