結論:同じ棟の他の部屋は、あなたの物件の値札になります
マンションを売りに出したあと、エレベーターの掲示や不動産サイトで「同じマンションの別の部屋も売りに出ている」と気づくことがあります。
このとき起きているのは、単なる偶然の重なりではありません。買主から見れば、同じ棟の部屋どうしは最も比べやすい物件どうしです。 立地も築年数も管理状態も同じなので、比較の材料が価格・階数・広さ・室内の状態だけに絞られます。
つまり、同じ棟に他の売り物件があるとき、その価格はそのままあなたの物件の値札として機能します。高いほうに置けば「あちらのほうが安い」と言われ、安いほうに置けば早く決まる代わりに手取りが減ります。
そして、この状況は例外ではありません。神戸市の実データを見ると、売りに出ている中古マンションの3件に2件は、同じ棟に他の売り物件がある状態でした。
実データ:神戸市の売出3,775件のうち67.6%が競合状態
URUMAEでは、神戸市内で売りに出ている中古マンションの情報を独自に集計しています。2026年8月23日時点の3,775件を、建物ごとに名寄せして数えた結果が次のとおりです。
| 同じ棟の売り物件 | 棟数 | 該当する売り物件の件数 |
|---|---|---|
| 1件だけ | 1,224棟 | 1,224件 |
| 2件 | 237棟 | 474件 |
| 3件 | 107棟 | 321件 |
| 4〜5件 | 112棟 | 494件 |
| 6〜9件 | 86棟 | 612件 |
| 10件以上 | 46棟 | 650件 |
| 合計 | 1,812棟 | 3,775件 |
- 同じ棟に他の売り物件がある件数:2,551件(全体の67.6%)
- 2件以上出ている棟:588棟(全棟の32.5%)
- 1つの棟に出ている最大件数:42件(中央区)
10件以上が同時に売りに出ている棟が46棟あり、その46棟だけで650件、市内全体の売り物件の17%を占めています。大きな棟では、あなたは同じ建物の中で十数件と競争していることになります。
区別に見ると、競合の起きやすさはかなり違います。
| 区 | 売り物件 | うち競合状態 | 競合率 | 1棟あたりの最大件数 |
|---|---|---|---|---|
| 中央区 | 797件 | 635件 | 79.7% | 42件 |
| 東灘区 | 836件 | 610件 | 73.0% | 19件 |
| 灘区 | 360件 | 251件 | 69.7% | 13件 |
| 垂水区 | 567件 | 373件 | 65.8% | 16件 |
| 長田区 | 121件 | 72件 | 59.5% | 6件 |
| 西区 | 301件 | 177件 | 58.8% | 9件 |
| 兵庫区 | 193件 | 111件 | 57.5% | 15件 |
| 須磨区 | 436件 | 240件 | 55.0% | 16件 |
| 北区 | 164件 | 82件 | 50.0% | 6件 |
大規模なマンションが多い中央区・東灘区・灘区で競合率が高くなっています。中央区では約8割が競合状態です。
一方で北区・須磨区は5割台です。ただしこれは「競争がゆるい」という意味ではありません。棟の規模が小さいぶん同じ棟での競合は起きにくいものの、周辺の別の棟との比較にさらされることに変わりはありません。
同じ棟の中でも、単価は開いています
「同じ棟なら価格も似たようなもの」と思われるかもしれませんが、実際にはかなり開きます。
2件以上出ている588棟について、棟の中で最も高い平方メートル単価と最も安い平方メートル単価の比を計算しました。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 中央値 | 1.11倍 |
| 平均 | 1.27倍 |
| 上位10%(開きの大きいほう) | 1.73倍以上 |
| 開きが1.3倍以上ある棟 | 162棟(588棟の27.6%) |
半分の棟では1.11倍以内に収まっていますが、4棟に1棟以上は1.3倍以上の開きがあり、上位10%では1.73倍以上に達します。
同じ建物の中でこれだけ差がつく理由は次のとおりです。
- 階数:上層階ほど高く、1階や2階は下がります
- 向き・眺望:南向き、海が見える、山が見えるといった条件
- 角部屋かどうか:窓が多く採光と通風で有利です
- 室内の状態:フルリフォーム済みと未改修では大きく変わります
- 専有面積:狭い部屋ほど1平方メートルあたりの単価は高く出ます
ここが重要です。 同じ棟に安い売り物件があっても、それが1階の未改修の部屋で、あなたの物件が最上階の角部屋でリフォーム済みなら、価格差には理由があります。買主にその理由が伝わっていれば、高いほうが選ばれることは普通に起こります。
問題になるのは、差の理由が買主に伝わっていない場合です。掲載写真が暗い、階数や向きが目立たない、リフォーム履歴が書かれていない。この状態だと、買主は価格だけで比べます。
階数や向きによる価格差の一般的な傾向はマンション売却の相場を自分で調べる3つの方法にまとめています。
競合があるときの3つの戦い方
同じ棟に他の売り物件があると分かったら、取れる手は3つです。
1. 価格で先に決める
いちばん確実なのは、同じ棟の中で最も条件のよい価格に置くことです。買主は同じ棟を比較検討するため、条件が近ければ安いほうから決まります。
ただし手取りは減ります。次章で計算例を出します。
2. 価格以外で差を作る
価格を下げずに選ばれるための工夫です。
- 写真を撮り直す:同じ棟の他の部屋の掲載写真を実際に見て、自分の物件が見劣りしないか確認する
- 引渡し時期を柔軟にする:買主の都合に合わせられることは、意外に効きます
- 室内をきれいにする:ハウスクリーニングは数万円で、写真と内覧の両方に効きます
- 管理状態の情報を出す:修繕の履歴、管理組合の状況など、同じ棟なら差はつきませんが、買主の不安を減らせます
売り出し前の準備は家を高く売るための準備7選で詳しく扱っています。
3. 時期をずらす
急がないなら、同じ棟の他の物件が決まるのを待つ選択もあります。競合が減れば比較対象がなくなり、価格を保ちやすくなります。
ただし待っている間も築年数は進み、維持費はかかり続けます。「いつまで待つか」を先に決めてから選んでください。
計算例:4%の差が手取りにいくら効くか
同じ棟に他の売り物件があり、そちらが2,880万円で出ているとします。自分の物件を3,000万円で出すか、合わせて2,880万円にするかで比べます(いずれも70平方メートル)。
| 項目 | 3,000万円 | 2,880万円 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1平方メートルあたり単価 | 42.9万円 | 41.1万円 | −1.7万円 |
| 仲介手数料(上限・税込) | 105.6万円 | 101.64万円 | −3.96万円 |
| 差し引き | 2,894.4万円 | 2,778.36万円 | −116.04万円 |
仲介手数料の上限は「売買価格×3%+6万円+消費税10%」(400万円超の場合)です。
- 3,000万円:3,000万円×3%+6万円=96万円、税込105.6万円
- 2,880万円:2,880万円×3%+6万円=92.4万円、税込101.64万円
4%の値引きで、手取りは約116万円減ります。 この116万円と「何か月早く売れるか」を天秤にかけることになります。
たとえば管理費・修繕積立金・毎年の税金などの維持費が月3万円なら、116万円は約39か月分にあたります。1〜2か月早く売れるだけでは元は取れません。焦って同じ棟の最安値に合わせにいく前に、この計算をしてください。
値下げの判断基準は不動産売却の値下げ交渉はいつ・いくら下げる?にまとめています。
同じ棟の売出情報は、どうやって知るか
自分の物件と競合している物件を知る方法は3つあります。
- 不動産ポータルサイトで自分のマンション名を検索する:最も手軽で、買主が見ているのと同じ画面を確認できます
- 担当者に聞く:不動産会社はレインズ(不動産流通機構が運営する業者間の情報ネットワーク)で同じ棟の登録状況を見られます。売主が直接見ることはできないため、担当者に確認を依頼します
- 管理組合の掲示や理事会の議事録:売却に伴って所有者が変わる際の届出があるため、動きが見えることがあります
担当者に聞くときは「同じ棟で今、何件出ていますか。階数・広さ・価格を教えてください」と具体的に尋ねてください。 これは価格を決めるうえで当然に必要な情報で、宅地建物取引業法では、不動産会社が価額または評価額について意見を述べるときはその根拠を明らかにしなければならないと定められています(宅地建物取引業法 第34条の2 第2項)。
同じ棟に大量に出ているときは、理由を確かめる
同じ棟に10件、20件と売り物件が出ているとき、それは偶然ではないことがあります。考えられる背景は次のとおりです。
- 修繕積立金や管理費の値上げが決まった、または近く決まりそう
- 大規模修繕工事の一時金の負担が議論されている
- 賃貸に出していた所有者がまとめて手放している
- 建物の設備更新(エレベーター、給排水管)の時期が来ている
国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、修繕積立金が長期修繕計画上の必要額に対して不足しているマンションは36.6%にのぼります。また賃貸住戸のあるマンションは77.8%、空室のあるマンションは34.0%です(出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」・令和6年6月21日公表)。
買主やその担当者は、同じ棟に大量の売り物件が出ていることに必ず気づきます。 そのとき「何かあるのでは」と疑われるより、こちらから「管理組合はこういう状況です」と説明できるほうが有利です。管理組合の総会議事録・長期修繕計画・修繕積立金の残高は、売り出し前に取り寄せておいてください。
修繕積立金の値上げが価格に与える影響は修繕積立金の値上げがマンションの売却価格を下げる、2026年4月に施行された制度改正の影響は改正区分所有法で扱っています。
よくある質問
Q. 同じ棟の他の部屋と、同じ不動産会社に頼んでもいいですか?
法律上の問題はありません。むしろ同じ棟の事情に詳しいという利点があります。ただし、その会社が両方の物件を扱っている場合、どちらを優先して勧めるかは会社の判断になります。気になるなら「同じ棟の他の部屋も扱っていますか」と最初に確認してください。
Q. 自分の部屋のほうが条件がいいのに、安い部屋から決まってしまいます。
条件の差が買主に伝わっていない可能性が高いです。掲載中の写真・間取り図・説明文を、同じ棟の他の物件と並べて見比べてください。階数・向き・角部屋・リフォーム履歴が説明文に書かれていない、写真が暗い、といった理由で候補から外れていることがあります。
Q. 同じ棟に売り物件が多いと、価格は必ず下がりますか?
必ずではありません。売り物件が多くても買いたい人も多い人気の棟なら、価格は保たれます。重要なのは件数そのものより、売り物件の数に対して問い合わせがどれくらい来ているかです。担当者に問い合わせ件数を確認してください。
Q. 他の部屋が値下げしました。追随すべきですか?
すぐに追随する必要はありません。まず、その部屋と自分の部屋の条件差を確認します。階数・向き・広さ・室内の状態が違えば、価格差には理由があります。追随するのは、条件がほぼ同じで、かつ自分の物件への問い合わせが止まってからで間に合います。
Q. 同じ棟で一番高い価格で売れた事例を知りたいのですが。
不動産会社はレインズで過去の成約事例を確認できます。担当者に「この棟の過去の成約事例を見せてください」と依頼してください。また国土交通省の不動産情報ライブラリでも、実際の取引価格が公表されています。ただし棟名までは公表されないため、詳しい事例は担当者に確認するのが確実です。
売る前に、価格の幅をつかんでおきませんか
不動産売却は、売る前の準備で決まります。同じ棟に競合があるときこそ、自分の物件がどの位置にあるのかを先に把握しておくことが効きます。
- 売却手取り計算ツールを使う — 手元に残る金額の概算を3分で試算
査定額は、税額や評価額を計算するためのものではありません。その物件が実際にいくらで売れそうか、価格の幅を知るためのものです。1社だけの数字では幅が見えないため、複数の会社の意見を並べて比べることをおすすめします。
※本記事の数値は執筆時点のものです。個別の事情によって結論は変わります。

