結論:古いマンションに、建替え以外の出口ができました
2026年(令和8年)4月1日、改正区分所有法が施行されました。これまで区分所有者全員の同意がなければ実現しなかった選択肢が、多数決でできるようになっています。
新しく創設されたのは、マンションと敷地を一括して第三者に売る建物敷地売却決議、建物を取り壊したうえで敷地を売る建物取壊し敷地売却決議、建物を壊すだけの取壊し決議、そして躯体を残して全住戸を作り替える建物更新(一棟リノベーション)決議の4つです。必要な賛成の割合は原則5分の4で、一定の客観的事由があるときは4分の3に下がります。
売る側にとっての関心は、この改正が自分の住戸の値付けに関係するのかという一点でしょう。結論から言えば、自分のマンションが要件緩和の対象になる状態かどうかを把握しているかどうかで、買主との会話の質が変わります。耐震性を欠く、配管が腐食している、エレベーターがない。これらは買主にとってのマイナス材料であると同時に、将来の出口が制度上見えている材料でもあります。
何が変わったのか
改正法の正式名称は「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)です。2025年5月30日に公布され、区分所有法・被災区分所有法の改正部分は2026年4月1日から施行されました(出典: 法務省 老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について)。
背景にあるのは、国が「2つの老い」と呼ぶ状況です。国土交通省と法務省の資料によれば、築40年以上のマンションは全体の約2割にあたる約137万戸にのぼり、今後10年で2倍、20年で3.4倍に増える見込みとされています。さらに、その住戸のうち世帯主が70歳以上の割合が5割を超えています。
建物が古くなり、住む人も高齢になる。その結果として集会の決議が成立しなくなり、修繕も再生も進まない。この詰まりを外すのが改正の狙いです。
新しい決議と、必要な賛成割合
改正前と改正後を並べると、変化がはっきりします。
| 決議の種類 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 建替え | 5分の4 | 5分の4(客観的事由があれば4分の3) |
| 建物敷地売却(建物と敷地を一括売却) | 区分所有者全員の同意 | 5分の4(客観的事由があれば4分の3) |
| 建物取壊し敷地売却 | 区分所有者全員の同意 | 5分の4(客観的事由があれば4分の3) |
| 取壊し | 区分所有者全員の同意 | 5分の4(客観的事由があれば4分の3) |
| 建物更新(一棟リノベーション) | 区分所有者全員の同意 | 5分の4(客観的事由があれば4分の3) |
| 被災した場合(被災区分所有法) | 5分の4 | 3分の2 |
「全員の同意」と「5分の4」の差は、実務では決定的です。100戸のマンションで1戸でも所在の分からない所有者がいれば、従来は一括売却の話が入口で止まっていました。改正後はその1戸があっても議論を前に進められます。
一棟リノベーションが加わった意味も小さくありません。躯体を補強して全住戸を改良する工事は技術的には可能になっていたのに、法律が全員同意を求めていたために事実上できませんでした。建物を壊さずに実質的な建替えを実現する道が、多数決で開いたことになります。
4分の3に下がる「5つの客観的事由」
売主にとって最も実用的なのがここです。改正法は次のいずれかに当てはまる場合に、決議要件を5分の4から4分の3へ引き下げます。
| 客観的事由 | 確認できる資料の例 | |
|---|---|---|
| 1 | 地震に対する安全性を欠いている | 耐震診断結果、建築時期(1981年5月以前) |
| 2 | 火災に対する安全性を欠いている | 消防用設備等点検結果報告書、是正指導の記録 |
| 3 | 外壁剝離等により周辺に危害を生ずるおそれがある | 外壁の打診調査結果、応急措置の履歴 |
| 4 | 給排水管設備の損傷、腐食がある | 配管調査報告、漏水事故の履歴、長期修繕計画 |
| 5 | バリアフリー基準に適合していない | エレベーターの有無、共用部の段差やスロープの状況 |
このうち見落とされやすいのが5番目です。エレベーターのない旧式の中層マンションは、これに該当する可能性があります。危険だからではなく使いにくいからでも要件が下がる設計になっている点は、まだあまり知られていません。
言い換えれば、いわゆる「売りにくい築古マンション」の多くが、制度上は要件緩和の側に立っているということです。買主が事業者であれば、この点を評価することもあり得ます。
管理の側も、同時に変わっています
再生の話ばかりが注目されますが、多くのマンションにとって影響が大きいのは日常の管理に関する改正のほうかもしれません。
修繕など、区分所有権の処分を伴わない事項の決議は、これまで全区分所有者の多数決でした。改正後は集会の出席者の多数決になります。法務省と国土交通省の資料には、賛成2・反対1・欠席2のケースで現行法なら否決、改正後なら可決という例が示されています。総会の出席率が低いマンションほど、この変更で物事が動きやすくなります。
あわせて、裁判所が認定した所在等不明の区分所有者を、すべての決議の母数から除外する制度も創設されました。相続が繰り返されて連絡先の分からない住戸があるマンションでは、これが決議不成立の主因でした。
共用部分の変更決議も一部が緩和されています。原則は4分の3ですが、設置または保存の瑕疵によって他人の権利が侵害される、あるいはそのおそれがある場合は3分の2に下がります。倒壊のおそれのある立体駐車場を取り壊して平置きにする、といったケースが想定されています。
国は、マンションの再生等の件数を令和6年の472件から1,000件へ、管理計画認定の取得割合を約3%から20%へ引き上げる目標を掲げています。
売る前にやっておくこと
まず、過去3年分の総会議事録を読み返してください。建替え・敷地売却・大規模修繕の検討が議題に上がっていないかを確認します。検討が動いているなら、それは買主の判断に影響する情報です。伏せたまま進めるべきではありません。判断に迷う場合は告知義務の範囲を参考に、仲介会社に相談してください。
次に、先ほどの5つの事由に当たるかを資料で確かめます。耐震診断の有無、外壁調査の結果、配管の状況は、管理会社が発行する重要事項調査報告書にある程度は記載されています。当てはまるかどうか分からないまま売りに出すより、把握しておいたほうが買主の質問に答えられます。
三つ目に、管理の良し悪しを説明できる状態にしておくこと。決議が通りやすくなったということは、管理組合が機能しているマンションほどこれから差がつくということでもあります。長期修繕計画の見直し時期、修繕積立金の水準、滞納の状況は、そのまま価格の材料になります。積立金については修繕積立金の値上げと売却価格の関係で詳しく扱っています。
1981年5月以前の建物であれば、買主の住宅ローンや税制優遇の面で不利になることがあります。神戸の物件については神戸で旧耐震マンションを売る、築古全般については築古マンション・古い家は売れる?をご覧ください。
期待しすぎないほうがよい点
改正は前進ですが、万能ではありません。
5分の4は依然として高い壁です。4分の3への緩和は5つの客観的事由がある場合に限られます。決議が成立しても、その後に組合設立、権利変換計画、分配金取得計画といった事業手続が控えており、時間はかかります。
そして、決議が通るかどうかと、あなたの住戸がいま何円で売れるかは別の話です。改正を理由に相場が急に上がるわけではありません。「うちも一括売却できるのでは」という期待だけで売却を先延ばしにすれば、進むのは築年数だけです。売り時の考え方は不動産の売り時はいつ?を参考にしてください。
よくある質問
Q. 改正法は、すでに施行されているのですか?
区分所有法・被災区分所有法の改正部分は2026年4月1日に施行済みです。マンション管理適正化法とマンション再生法(建替え円滑化法)側の改正も、一部は2025年11月28日から先行して施行されています。
Q. うちのマンションは旧耐震です。売りやすくなりますか?
一概には言えません。旧耐震であること自体は買主にとってマイナスですが、地震に対する安全性を欠いていると認められれば、将来の一括売却や建替えの決議要件は4分の3に下がります。長期的な出口が見えるという意味では、プラスに働き得ます。
Q. 建物敷地売却が決議されたら、反対した人はどうなりますか?
建替え決議と同様の枠組みで、売却に参加しない区分所有者の権利を買い取る手続きが用意されています。ただし条件は事案によって異なります。実際に決議が動いている場合は、管理組合の顧問弁護士や専門家に確認してください。
Q. 一棟リノベーションは大規模修繕とどう違うのですか?
大規模修繕は共用部分の修繕にとどまりますが、建物更新は躯体を補強したうえで全住戸の専有部分まで含めて作り替えるものです。実質的に建替えに近い結果を、建物を壊さずに実現します。従来は全員の同意が必要でした。
Q. 売却のタイミングは、改正の前と後で変わりますか?
改正は制度の話であり、市場価格に直接効くものではありません。決議が現実に動き出しているマンションであれば、その進捗は価格に影響します。動いていないなら、通常どおり相場と自分の事情で判断してください。相場の調べ方はマンション売却の相場を自分で調べる3つの方法で解説しています。
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※制度の適用可否は個別のマンションの状況によって異なります。具体的な決議の可否や手続きは、管理組合・弁護士・専門家にご確認ください。
