入居者がいる家も、賃貸を続けたまま売却できます
「貸している家は、退去してもらわないと売れない?」。賃貸中のまま所有者が変わる売買を、オーナーチェンジと呼びます。入居者の暮らしを続けたまま売る方法です。
買主は家賃収入や将来の費用を検討します。ただし、価格が利回りだけで決まるわけではありません。契約条件、建物の状態、地域の取引事例も判断材料になります。
例えば、月10万円の家賃でも、管理費や修繕費を引けば手元に残る金額は違います。まずは賃貸契約と実際の収支をそろえましょう。
貸主の地位と敷金は、原則として買主へ移ります
建物の引渡しを受けた借主は、原則として新所有者にも賃借権を主張できます。このように賃貸借の対抗要件がある場合、売却により貸主の地位は原則として買主へ移ります。
根拠は借地借家法31条と民法605条の2です。通常の承継で借主の承諾は不要ですが、貸主の地位を売主に残す合意などの例外もあります。
また、買主が貸主の地位の移転を借主に主張するには、所有権移転登記が必要です。振込先だけ先に変更せず、登記と通知の段取りを整えます。
敷金の返還義務も原則として買主が引き継ぎます。売主と買主の間で敷金相当額をどう精算するか、契約書と預かり記録を基に確認してください。
表面利回りは、費用を引く前の数字です
表面利回りは「年間家賃収入÷物件価格×100」で計算します。仮に月10万円、年120万円の家賃で、価格が2,000万円なら6%です。
ただし、6%はこの例の仮定で、市場の標準ではありません。逆に120万円÷6%=2,000万円と計算できても、その価格で売れる保証はありません。
| 確認する数字 | この例での見方 |
|---|---|
| 年間家賃収入 | 月10万円×12か月=120万円 |
| 年間経費の仮定 | 管理費・修繕積立金・税金などで30万円 |
| 経費差引後 | 120万円−30万円=90万円 |
| 価格に対する割合 | 90万円÷2,000万円=4.5% |
この4.5%にも、借入返済、売買時の費用、所得に対する税金、臨時の修繕費などは含めていません。将来の空室や家賃変更も別に検討します。
そのため、満室想定の収入と現在の入金実績を分けます。「居住用より必ず1〜2割安い」といった率を当てはめず、収支と近隣事例を基に査定の理由を聞きましょう。
査定前に、契約と入金の資料をそろえます
レントロールとは、部屋ごとの家賃、契約期間、敷金などをまとめた一覧です。1室だけでも、契約書と現在の条件が一致しているかを確認します。
必要なのは、賃貸借契約書・更新書類、家賃の入金履歴、敷金の預かり記録、管理委託契約、修繕履歴です。マンションなら、管理費・修繕積立金と今後の工事計画も整理します。
滞納や入居者からの修理依頼があれば、その内容と対応状況も伝えます。売却前に発生した未収家賃と、売却後の家賃を分け、請求権や回収の担当を契約で確認してください。
室内確認は、入居者の生活に配慮して管理会社などと調整します。立入りができない場合は、確認できない部分を明示し、過去の写真や工事資料で補います。
引渡し時には、家賃の精算日、敷金、修繕対応の引継ぎを確認します。入居者へは新旧貸主や管理会社から、変更日、振込先、連絡先を分かる形で案内しましょう。
【注意】売却予定だけで退去を求められるとは限りません
普通借家では、貸主からの更新拒絶や解約申入れに正当事由が必要です。借地借家法28条は、双方の使用の必要性、契約の経過、建物の状態、立退料の申出などを総合して判断する仕組みです。
つまり、売りたいという理由や立退料の提示だけで、退去が決まるわけではありません。合意のない空室引渡しを買主に約束しないことが大切です。
定期借家も、契約書に名前が書いてあれば十分とはいえません。有効な契約と事前説明を確認し、期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までの終了通知なども点検します。通知が遅れた場合は、原則として通知から6か月経過まで終了を主張できません。
入居中の条件を、そのまま説明できる資料を作る。
まず契約書と入金履歴を合わせて確認しましょう。建物の状態は築古物件の売却、手取りは売却費用の内訳も参考になります。
よくある質問
Q. 入居者に購入を打診できますか?
選択肢の一つです。ただし購入や退去を迫らず、管理会社・仲介会社と相談して意向を確認します。買わない場合も賃貸契約が続くことを前提に進めます。
Q. 家賃滞納があると売れませんか?
一律に売却できなくなるわけではありません。金額、期間、保証会社の対応を開示し、買主が引き継ぐ事項を整理します。価格への影響は個別に確認します。
Q. 元自宅を貸していても3,000万円控除は使えませんか?
賃貸中という理由だけで対象外とは限りません。元自宅なら転居後の期限などを満たす場合があります。国税庁の要件を確認し、税務署等へ相談してください。

