状況別2026年7月29日

認知症の親の家は売れるのか|成年後見と家庭裁判所の許可、家族信託との違い

認知症成年後見居住用不動産の処分許可家族信託実家の売却

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結論:子が代わりに売ることはできません。法的な手順が必要です

「親が認知症になり、施設の費用のために実家を売りたい」——実家の売却で特に多い相談のひとつです。

先に結論をお伝えします。不動産の売買契約は、売主本人に判断能力(意思能力)があることが前提です。判断能力が失われた状態で結んだ契約は無効になり得ます。そして子であっても、親の不動産を代わりに売る権限は当然には持っていません。委任状に署名してもらう方法も、本人に判断能力がない以上は使えません。

取れる道は、判断能力が低下した「後」と「前」で完全に分かれます。

状況使える手段
すでに判断能力が低下している成年後見制度(法定後見)を使う。居住用不動産なら家庭裁判所の許可が必要
まだ判断能力がある任意後見契約、家族信託、生前贈与、本人による売却など、選択肢が多い

この記事では、それぞれの手続きの中身、かかる期間と費用、そして実務上つまずきやすい点を整理します。


すでに判断能力が低下している場合:成年後見制度

手続きの流れ

家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、成年後見人を選任してもらいます。申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族などです。

選任された成年後見人は本人の財産を管理する権限を持ちますが、居住用不動産の売却には追加のハードルがあります

居住用不動産には家庭裁判所の許可が必要(民法859条の3)

民法859条の3は、成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可を得なければならないと定めています。

ここで重要なのが「居住用」の範囲です。実務では、現に居住している建物と敷地だけでなく、過去に生活の本拠として居住していた建物も含むと扱われます。つまり、親がすでに施設や病院に入っていて空き家になっている実家も、居住用不動産に当たります。「今は住んでいないから許可は不要」という理解は誤りです。

許可が必要なのは売却だけではありません。賃貸借契約の締結・解除、抵当権の設定なども対象です。

そして最も重要な点として、許可を得ずに売却した場合、その売買契約は無効です。買主にも重大な影響が及ぶため、仲介する不動産会社は必ずこの点を確認します。

【図表1:法定後見での売却手順。後見開始の申立て → 後見人選任 → 売買契約(許可を停止条件とする)→ 居住用不動産処分許可の申立て → 許可 → 決済 出典:裁判所・民法859条の3】

どれくらいの期間がかかるか

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によれば、審理期間の分布は次のとおりです。

審理期間割合
1か月以内37.9%
1か月超2か月以内33.2%
2か月超3か月以内16.2%
3か月超4か月以内6.5%
2か月以内の累計約71.1%
4か月以内の累計約93.8%
【図表2:後見開始の審理期間。約7割が2か月以内、約94%が4か月以内に終局 出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年)」】

なお、同統計によれば令和7年の成年後見関係事件の申立件数は43,159件で、前年(41,841件)から約3.2%増加しています。

ただし、これは後見開始までの期間です。売却までには、この後に買主を見つけ、売買契約を結び、さらに居住用不動産処分許可の申立てと審理が入ります。全体では半年以上を見込むのが現実的です。

実務上の順序:契約が先か、許可が先か

ここが最もつまずきやすい点です。家庭裁判所は「いくらで、誰に売るのか」が決まっていないと許可の判断ができません。そのため実務では、

  1. 買主を見つけ、「家庭裁判所の許可が得られることを停止条件とする」売買契約を結ぶ
  2. その契約書を添えて居住用不動産処分許可を申し立てる
  3. 許可が下りてから決済・引渡し

という順序を取ります。この段取りを理解している不動産会社に依頼することが重要です。条件付き契約に不慣れな担当者だと、買主に不利な契約書になったり、許可が下りずに白紙に戻ったときの処理でもめたりします。

許可の判断で見られること

家庭裁判所は本人の利益になるかという観点で判断します。具体的には、売却の必要性(施設費用・医療費の確保など)、売却価格の妥当性、本人の住居が確保されるか、といった点です。

そのため、相場から乖離した安値での売却は許可されにくいとされています。査定書を複数取り、価格の根拠を示せる状態にしておくことが、結果的に許可を得やすくします。査定の種類については机上査定と訪問査定の違いをご覧ください。

注意点:後見は売却が終わっても続きます

成年後見制度は「家を売るための制度」ではなく、本人の財産全体を継続的に守る制度です。一度始めると、原則として本人が亡くなるまで続きます。専門職(弁護士・司法書士など)が後見人に選任された場合は、報酬が毎年発生します。

「実家を売るためだけに使う」という発想では負担が読み違いになります。この点は申立て前に必ず理解しておいてください。


まだ判断能力がある場合:選択肢は大きく広がります

親御さんに判断能力がある段階なら、取れる手はずっと多くなります。

家族信託

信託契約により、財産の管理・処分の権限を子(受託者)に移す方法です。所有権の名義は受託者に移りますが、利益を受ける権利(受益権)は親(受益者)に残ります。

最大の利点は、親の判断能力が低下した後も、家庭裁判所の許可を経ずに子の判断で売却できることです。売却のタイミングを逃しにくくなります。

一方、注意点もあります。

  • 信託契約の作成に専門家への報酬と公正証書作成費用がかかります
  • 信託財産に含めた不動産の登記(信託の登記)が必要です
  • 身上監護(施設との契約や医療同意など)はカバーしません。財産管理の制度であって、生活面の代理は別の話です
  • 契約時点で親に判断能力がなければ利用できません

任意後見契約

親が元気なうちに「判断能力が低下したらこの人に後見人になってほしい」と契約しておく方法です。公正証書で作成します。実際に能力が低下したら、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して効力が生じます。

ただし、任意後見でも居住用不動産の処分には注意が必要です。契約内容と監督人の関与のもとで進めるため、法定後見ほどではないにせよ、自由に売れるわけではありません。

3つの比較

法定後見任意後見家族信託
判断能力低下後に開始できるかできるできない(事前契約が必要)できない(事前契約が必要)
居住用不動産の売却家庭裁判所の許可が必要監督人の関与のもとで実施契約内容に沿って受託者が実行
身上監護対応する対応する対応しない
続く期間原則として本人の死亡まで同左契約で定めた期間
費用申立費用+専門職なら毎年の報酬同左+監督人報酬初期費用が中心

実務でよくある誤解

「委任状をもらえば売れる」 — 判断能力がない状態で作成された委任状は無効です。署名できたとしても、意思能力がなければ効力は認められません。

「子の名義に変えてから売ればいい」 — 名義変更(贈与)自体が法律行為なので、同じ理由でできません。加えて贈与税の問題も生じます。

「軽い認知症なら大丈夫」 — 程度によります。判断能力が残っていれば本人が売主として契約できますが、後から契約の有効性を争われるリスクがあります。医師の診断書を取り、司法書士による意思確認を経るなど、慎重な手当てが必要です。

「施設に入ったから居住用ではない」 — 前述のとおり、過去に生活の本拠だった建物は居住用不動産として扱われます。


よくある質問

Q. 親名義の家を売って施設費用に充てたいのですが、急いでいます。

最短でも数か月、現実的には半年程度を見込んでください。後見開始の審理は約7割が2か月以内に終わりますが、その後に買主探し、条件付き契約、処分許可の申立てが続きます。費用の工面については、売却以外の手段(親の預貯金の取り崩しも後見人の権限で可能)も含めて考える必要があります。

Q. 私が成年後見人になれますか?

親族が選任されるケースは相当数あります。ただし、財産額が大きい、親族間に対立がある、不動産の売却予定があるといった事情があると、専門職が選ばれたり、後見監督人が付いたりする傾向があります。誰が後見人になるかは家庭裁判所が決めます(申立ての際に候補者を挙げることはできます)。

Q. 兄弟の意見が割れています。売れますか?

親名義の不動産である以上、決めるのは後見人と家庭裁判所です。ただし、親族間に対立がある事案は専門職後見人が選任されやすく、手続きも慎重になります。相続がからむ場合は共有名義の不動産を売る方法も参考にしてください。

Q. 親が亡くなるのを待った方が早いのでは?

現実的な相談としてよくありますが、それまでの固定資産税と管理の負担、建物の劣化、管理不全空家に指定されるリスクが生じます。また相続後は相続人全員の合意が必要になり、相続登記の義務化への対応も発生します。どちらが良いかは、費用と時間の両面で個別に比較すべき問題です。

Q. 家族信託は誰に相談すればよいですか?

信託に詳しい司法書士・弁護士が窓口になります。信託契約の設計を誤ると、想定した売却ができなくなることがあります。「不動産を売れるようにしたい」という目的を最初に明確に伝えることが重要です。


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※後見・信託の可否や手続きは個別事情で異なります。最終判断は弁護士・司法書士・家庭裁判所にご確認ください。

この記事について

本記事は、不動産売却情報メディア URUMAE 編集部が公表されている制度・法令に基づいて執筆・編集しています。 制度・税率は執筆時点の情報です。個別の税務相談は税理士にご相談ください。

運営者は宅地建物取引士。不動産業界での実務経験15年。

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