認知症と診断されたら、家は売れないのでしょうか?
「施設費用のために、子が親の家を売ってよい?」。親子というだけで、子に売却の代理権があるわけではありません。ただし、認知症の診断を受けたことと、売買契約の意味を理解できないことは同じではありません。
判断の出発点は、本人が売却の内容や結果を理解して意思を示せるかです。民法3条の2は、意思表示の時に意思能力がなかった法律行為を無効としています。家族全員が賛成しても、本人の意思能力や必要な代理権の問題は解消しません。
医師の診断や本人の状況を踏まえ、弁護士・司法書士に契約と登記の進め方を相談します。この記事は2026年10月時点の制度に基づきます。
本人の状態と、すでにある契約・審判を確認します
判断能力が低下した人を支える法定後見には、現在、後見・保佐・補助の類型があります。「少し低下したら全員に成年後見人を付ける」という制度ではありません。
| 最初に確認すること | 売却に関わるポイント |
|---|---|
| 本人の意思能力 | 売却の内容を理解して意思表示できるか |
| 後見等の審判があるか | 誰が選ばれ、どの権限があるか |
| 任意後見契約があるか | 契約の代理権と監督人選任の状況 |
| 信託契約があるか | 家が信託財産か、売却権限があるか |
保佐人・補助人だから当然に家を売れるわけではなく、不動産処分の代理権が付与されているか確認します。既存の委任状や契約も、名前だけで有効性・権限を判断しません(出典:民法3条の2・7・11・15・876条の4等)。
本人が理解できない状態になってから新たな委任状に署名しても、それで有効な代理権を作れるとは限りません。売買契約を先に進めず、必要な支援の種類を確認します。
後見人等が居住用不動産を売るには、別の許可が必要です
成年後見人等が本人に代わって居住用の建物や敷地を処分するときは、家庭裁判所の許可が必要です。後見人の選任と、家を売る許可は別の手続きです。
対象には、現在住む家だけでなく、病院・施設への入所前に住んでいた家なども含まれます。「もう空き家だから許可不要」と判断しないでください。許可なく処分した場合は無効となります(出典:裁判所・居住用不動産の処分許可)。
準備する資料は登記事項証明書、査定書、売却の必要性や契約条件が分かる書類などです。たとえば施設費用に使うなら、入所先、毎月の収支、預貯金、売却後の生活の見通しを整理します。
査定書は高い金額を示すだけでなく、比較事例や建物の状態を説明できるものが役立ちます。机上査定と訪問査定の違いも確認して資料をそろえます。
契約を先に結ぶ場合の条件に注意してください
許可申立てには具体的な売却条件が必要ですが、「必ず先に契約を締結する」とは限りません。裁判所の書式には売買契約書の案を提出する例もあります(出典:金沢家庭裁判所・申立書)。
後見人等が担当裁判所に提出資料と順序を確認し、不動産会社と契約案を整えます。許可を条件とする契約を使う場合も、許可されない場合や審理が長引く場合の手付金・期限の扱いを明記します。
また、後見開始の審理期間の統計から、家が売れる日までは予測できません。買主探し、権限の確認、処分許可、決済準備は別に必要です。施設への支払期限が迫っているなら、売却が間に合うと決めつけず、本人の資金と支払いの調整も相談します。
売却代金は親本人の財産です。家族の相続予定額として分けるのではなく、本人の生活と利益のために管理します。
家族信託や任意後見は、本人の意思を確かめて準備します
任意後見は、必要な判断能力があるうちに、公正証書で将来の代理事務を定める制度です。現在の制度では、判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに効力が生じます(出典:任意後見契約法2〜4条)。
家族信託は、契約で定めた目的に沿って、受託者が信託財産を管理・処分する仕組みです。家を対象にするなら、売却権限、代金の管理、親の生活費への支出、終了時の扱いまで設計します。子が自由に使える財産に変える制度ではありません。
信託契約があれば何でも代行できるわけではありません。施設入所契約など、財産管理とは別の代理権が必要な場面もあります。制度名だけで選ばず、本人が望む暮らしと必要な支援を書き出します。
相談には本人の状況、登記資料、契約書、施設費用等の資料を持参します。家の資料は売却の必要書類で整理できます。
売却の前に、本人の意思と代理権を確認する
よくある質問
Q. 子を後見人に指定できますか?
候補者を挙げることはできますが、選ぶのは家庭裁判所です。子が選任される前提で契約や日程を約束しないでください。
Q. 家を売ったら後見は終了しますか?
売却が終わっただけで当然に終了するものではありません。財産管理や報告、報酬等も確認してから利用を検討します。現行制度と将来の改正後の仕組みを混同しないことも必要です。
Q. 後見制度の見直しは、すでに使えますか?
2026年6月公布の改正法では制度の見直しが予定されていますが、成年後見関係の施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日です。現行手続きを改正後と同じだと考えず、申立時に確認します(出典:東京家庭裁判所・制度見直しの説明)。
※2026年10月24日更新:診断名と意思能力の混同、一律に成年後見・半年必要とする説明、契約締結先行の断定を修正しました。

