「5年以内」と「買値の80%」だけでは判断できません
「相続対策で買ったアパートは、今のうちに売ったほうがいい?」。国税庁は、一定の賃貸不動産を相続時などの通常の取引価額で評価する案を公表しました。原則の対象は、課税時期前5年以内に有償で取得・新築されたものです。
案の適用開始は2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与。意見募集は2026年10月18日に終了しています。本稿は10月24日に確認した公表案の説明で、確定した制度としては扱いません(出典:e-Govの募集状況と通達案)。
だから、まず必要なのは売却の決断より、自分の物件がどの条件に当たるかの整理です。
取得日だけでなく、取得方法と商品の種類を並べます
案では、取得時期は原則として引渡しの時。売買契約の日付だけで5年を数えないようにします。
| 持っているもの | 案を読むときの確認点 |
|---|---|
| 5年以内に買った賃貸アパート | 原則の対象。除外規定も確認する |
| 相続で受け取った賃貸物件 | 相続前を含む有償取得の時期を確認する |
| 長く持つ土地に新築する建物 | 土地と建物を分け、経過措置を確認する |
| 案に定める特定小口化商品 | 取得から5年超でも別の評価方法の対象 |
「相続で取得したから対象外」とは限りません。案は、5年以内に有償取得された物件が相続等で渡った場合も含めています。除外規定は条件付きです(出典:通達案1〜4ページ)。
80%は、買値に掛ける一律の割引ではありません
案の原則は、課税時期の通常の取引価額です。取得価額が取得時の相場に相当すると認められる場合には、土地は地価変動、建物は償却などを反映した金額の80%で評価できるとしています。
たとえば土地だけの仮の例なら、取得価額6,000万円、案の地価変動率1.10の場合、6,000万円×1.10×80%=5,280万円です。地価変動を無視した4,800万円とは480万円違います。建物は別途計算し、ここには含めていません。
小口化商品の90%・95%の計算は別の仕組みです。一般のアパートに当てはめたり、すべての小口化商品を同じ扱いにしたりはできません。
売る・持つは、税額と手元の資金を分けて比べます
評価額が上がることと、同額の税金が増えることは違います。相続財産全体、債務、相続人、適用できる特例によって税額は変わります。
持つ場合は、返済後に残る資金を見ます。次は実在しない物件の年間試算で、経費に返済と修繕準備金を重複計上しない前提です。
| 年間の入出金 | 仮の金額 |
|---|---|
| 実際に受け取る家賃 | 600万円 |
| 管理・税金などの経費 | −120万円 |
| 借入返済(元金・利息) | −300万円 |
| 将来の修繕に取り置く資金 | −60万円 |
| 所得税等を引く前の手元資金 | 120万円 |
家賃収入が60万円減れば、ほかの条件が同じなら残りは60万円です。これは税務上の所得ではなく資金繰りの比較。大きな修繕が近ければ、その支出も別に加えます。
一方、売る場合は想定売価から残債・売却費用・譲渡所得への税金を引いた額と比べます。賃貸中の売却方法と相続不動産の売却時の税金も参考になります。
【注意】「5年待てば安心」「売れば解決」とは決めません
この5年以内の規定から外れることは、税負担が必ず下がる保証ではありません。小口化商品の扱いは別で、建築中物件の経過措置にも条件があります。案の経過措置の基準日は空欄なので、正式な通達で確かめます。
また、相続時の評価額が増えても、売却時の取得費がその額になるわけではありません。取得費は、原則として被相続人の購入代金などを基に計算します(出典:国税庁No.3270)。個別の適用・税額は税理士に確認してください。
税理士には、契約書と収支をセットで渡します
物件ごとに引渡日、土地・建物の取得価額、残債、年間収支をそろえます。小口化商品なら契約書と直近の価格資料も追加し、「この案のどの条件に当たるか」を尋ねます。
評価の変化と、持ち続ける収支を分けます。
更新:2026年10月24日、意見募集終了を確認し、案と確定事項の区別を明確にしました。
続けて読むなら、相続した実家を売る手順です。
よくある質問
Q. 2026年中の相続にもこの案が適用されますか?
案の適用開始は2027年1月1日です。ただし、従来の評価ルールがなくなる意味ではありません。
Q. 5年以内に買った自宅も対象ですか?
この案は一定の貸付用不動産が対象です。自宅というだけで同じ評価方法にはなりません。
Q. 小口化商品はすぐ売るべきですか?
一律には決まりません。契約上の換金条件、提示価格、分配金と税負担を並べて判断します。

