結論:判断の軸は「戻る予定があるか」と「築年数」の2つです
転勤が決まった。あるいは住み替えで今の家を出ることになった。このとき「売る」と「貸す」で迷う方は非常に多くいらっしゃいます。
先に結論をお伝えします。判断の軸は2つです。
- その家に戻る予定があるか:戻る予定がはっきりあるなら貸す、戻らないなら売るが基本です
- 築年数:新しい家ほど「貸しても利回りが低い」ため売る側に、古い家ほど利回りは高く見えますが手間とリスクが増えます
そして多くの方が見落とすのが、貸すと決めた瞬間から、あなたは大家という事業を始めることになるという点です。家賃がそのまま収入になるわけではありません。
この記事では、神戸市中央区の実データを使って「貸したら実際いくら残るのか」を数字で確かめたうえで、判断の順番をお伝えします。
実データ:同じエリアで「売った場合」と「貸した場合」を並べる
まず、売買と賃貸を同じ土俵で比べます。
URUMAEでは、神戸市内の中古マンションの売出情報と、神戸市中央区の賃貸募集情報をそれぞれ独自に集計しています。2026年8月時点で、売出は中央区797件、賃貸は463棟分のデータがあります。
これを築年代ごとに、1平方メートルあたりの売出単価と1平方メートルあたりの月額家賃で並べ、表面利回り(年間家賃を売買価格で割った数字)を出したのが次の表です。
| 築年代 | 家賃(1平方メートルあたり月額) | 売出単価(1平方メートルあたり) | 表面利回り |
|---|---|---|---|
| 2015年以降 | 3,101円 | 127.7万円 | 2.9% |
| 2005〜2014年 | 2,753円 | 100.2万円 | 3.3% |
| 1995〜2004年 | 2,611円 | 68.7万円 | 4.6% |
| 1985〜1994年 | 2,141円 | 34.5万円 | 7.4% |
| 1984年以前 | 2,050円 | 31.6万円 | 7.8% |
(家賃・売出単価はいずれも中央値。表面利回りは「家賃単価×12か月÷売出単価」で計算しています)
見てのとおり、築年数が古くなるほど表面利回りは上がります。 新築に近い物件は2.9%、築40年を超える物件は7.8%です。
理由ははっきりしています。家賃は築年数が古くなってもそれほど下がらない一方で、売買価格は大きく下がるからです。上の表でも、家賃単価は3,101円から2,050円へ約34%下がっただけなのに対し、売出単価は127.7万円から31.6万円へ約75%下がっています。
この数字を読むときの注意点を先に書いておきます。 賃貸のデータは中央区の募集中の物件が中心で、ワンルーム・1Kが約7割を占めます。一方の売買は70平方メートル前後のファミリー向けが中心です。1平方メートルあたりで揃えてはいますが、間取りの違いによる差が完全には消えていません。実際の利回りはこの表よりやや低く出ると考えてください。
神戸では「1995年前後」で開きが大きくなっています
上の表でもうひとつ目を引くのが、1995〜2004年築と1985〜1994年築の間の落差です。売出単価が68.7万円から34.5万円へ、およそ半分になっています。
前後の年代(2005〜2014年から1995〜2004年は約31%の下落)と比べても、この区切りだけ落ち方が急です。
要因はひとつではありません。1981年6月に建築基準法の耐震基準が変わっており、その影響が及ぶ年代であること。神戸では1995年の震災を挟んで建物の状態や評価が分かれること。設備の世代が違うこと。いずれも関係していると考えられますが、この数字だけで原因を断定することはできません。
ただ売主として押さえておくべき事実はひとつです。1990年代前半までに建てられた物件は、価格が大きく下がった水準にあります。 つまり「今売るといくらか」を確かめないまま貸す判断をすると、想定より低い価格でしか売れない現実に、数年後にあらためて直面することになります。
神戸の旧耐震マンションの事情は神戸で旧耐震マンションを売るで詳しく扱っています。
表面利回りから引かれるもの【計算例】
表面利回りは、家賃をそのまま売買価格で割った数字です。実際にはここから費用が引かれます。
3,000万円で売れる見込みの家を、月12万円で貸した場合で計算してみます。
| 項目 | 年額 | 内容 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 144万円 | 12万円×12か月 |
| 管理委託料 | −7.9万円 | 家賃の5%+消費税で試算 |
| 空室(年1か月分) | −12万円 | 入居者の入れ替え時に発生 |
| 管理費・修繕積立金 | −24万円 | 月2万円で試算。貸していても支払いは続きます |
| 火災保険・設備の故障備え | −5万円 | 給湯器・エアコンの交換は所有者負担 |
| 差し引き | 95.1万円 | 税金を引く前の金額 |
- 表面利回り:144万円÷3,000万円=4.8%
- 費用を引いた後:95.1万円÷3,000万円=3.2%
ここからさらに、家屋と土地にかかる毎年の税金と、家賃収入にかかる税金が引かれます。税額は個別の事情で大きく変わるため、金額を見込む段階で税理士や税務署にご確認ください。
入居者が退去したときの原状回復も所有者側の負担が入ります。 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、建物や設備の自然な劣化(経年変化)と、普通に住んでいて生じる傷み(通常損耗)の費用は貸主が負担すべきものと整理されています(出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)。「退去時に借主から回収できる」という前提で収支を組むと外れます。
つまり、表面利回り4.8%の物件でも、手元に残るのは3.2%程度から税金を引いた金額ということになります。この水準を「毎月の手間と空室の不安を引き受けてまで取りに行く価値があるか」が判断のポイントです。
住宅ローンが残っているなら、まず金融機関に確認する
ここが最も重要です。住宅ローンは「自分または家族が住む家」のための融資です。 黙って賃貸に出すのは契約違反になります。
住宅金融支援機構のフラット35では、公式のよくある質問で次のように整理されています。
- フラット35は、申込本人または親族が住む住宅の取得資金として利用するもの
- 転勤などやむを得ない事情で一時的に居住できない場合は、融資住宅に戻ることを前提に賃貸することは可能
- その場合は金融機関の窓口で住所変更に関する手続きを行う
- 投資目的など目的外の利用が判明した場合は、借入れの全額を一括で返済することがある
(出典: 住宅金融支援機構 フラット35 よくある質問「返済中に融資住宅を賃貸にしてもいいですか。」)
民間の住宅ローンでも考え方は同じで、金融機関ごとに扱いが違います。転勤が決まったら、不動産会社に相談するより先に借入先の金融機関に連絡してください。 ここで承諾が得られなければ、貸すという選択肢はそもそも成立しません。
住宅ローンが残ったまま売る場合の進め方は住宅ローンが残っている家は売れる?にまとめています。
貸すなら契約の種類で結果が変わります
貸すと決めた場合、契約の種類を必ず確認してください。ここを間違えると「戻りたいのに戻れない」ことになります。
| 契約の種類 | 期間が来たら | 転勤から戻る場合 |
|---|---|---|
| 普通借家契約 | 借主が希望すれば原則として更新される | 正当な事由がないと更新を断れない |
| 定期借家契約 | 期間満了で確定的に終了する | 期間を決めておけば予定どおり戻れる |
普通借家契約では、貸主から更新を断るには「正当の事由」が必要とされています(借地借家法 第28条)。転勤から戻ってきたというだけでは、この正当事由として認められるとは限りません。
一方の定期借家契約(同法第38条)は、あらかじめ決めた期間が来たら更新なく終了します。ただし成立させるには要件があります。
- 契約は書面(または電磁的記録)で行う
- 契約前に「更新がなく期間満了で終了する」旨を記載した別の書面を交付して説明する
- 期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主へ終了の通知をする
この手順を踏まないと、定期借家のつもりが普通借家として扱われることがあります。「3年で戻る予定」がある方は、必ず定期借家で契約してください。 家賃は普通借家より1割程度低くなるのが一般的ですが、戻れなくなるリスクと比べれば安い保険です。
管理を誰に頼むかも先に決める
遠方に転勤する場合、自分で入居者対応をするのは現実的ではありません。管理会社に委託することになります。
賃貸住宅の管理業は、2021年6月に全面施行された賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)により、管理戸数200戸以上の事業者は国土交通大臣の登録が義務とされています。登録業者には、事務所ごとの業務管理者の配置、管理受託契約を結ぶ前の重要事項説明、契約時の書面交付などが義務づけられています(出典: 国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト)。
委託先を選ぶときは、登録の有無と、管理委託料に何が含まれるか(入居者募集・家賃回収・クレーム対応・退去立会いなど)を書面で確認してください。
空室のリスクは統計で見ておく
「貸せば埋まる」という前提も確かめておきましょう。
総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在・確報集計)によると、全国の総住宅数は6,504万7千戸、空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%でいずれも過去最多・過去最高です。
注目したいのは内訳です。
| 空き家の種類 | 戸数 | 空き家に占める割合 |
|---|---|---|
| 賃貸用の空き家 | 443万6千戸 | 49.3% |
| 賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家 | 385万6千戸 | 42.8% |
| 二次的住宅(別荘など) | 38万4千戸 | 4.3% |
| 売却用の空き家 | 32万6千戸 | 3.6% |
| 合計 | 900万2千戸 | 100% |
最も多いのは「賃貸用の空き家」で、空き家全体のおよそ半数を占めます。これは統計上「新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅」と定義されているものです。貸そうとして空いたままの家が、全国に443万戸あるということになります(出典: 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査)。
兵庫県内の空き家は38万7千戸(前回調査比7.4%増)で過去最多、空き家率は13.8%と全国と同水準です。地域差は大きく、淡路地域23.8%・但馬地域21.2%に対し、阪神北地域は10.5%、東播磨地域は11.4%となっています(出典: 兵庫県「令和5(2023)年住宅・土地統計調査」)。
分譲マンションを貸すという選択自体は珍しくありません。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、賃貸住戸のあるマンションは77.8%にのぼります。一方で空室のあるマンションも34.0%あります(出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」・令和6年6月21日公表)。
貸すこと自体は普通の選択肢です。ただし常に埋まる保証はない、というのが統計の示すところです。
判断の順番
ここまでを整理すると、次の順に確かめるのが最短です。
- 金融機関に確認する:住宅ローンが残っているなら、貸してよいか。ここが不可なら売る一択
- 戻る予定を決める:戻るなら定期借家で期間を区切る。戻らないなら売る側に大きく傾く
- 今売ったらいくらか、複数の会社に聞く:貸す判断をするにも、売った場合の金額が分からないと比べられません
- 貸した場合の手残りを計算する:表面利回りではなく、費用と税金を引いた後の金額で比べる
- 築年数の先を見る:貸している間も築年数は進みます。数年後に売るときの価格は今より下がる前提で考える
なお、マイホームを売るときに使える税の特例には、住まなくなってからの期限があるものがあります。貸している間に期限が過ぎてしまうと使えなくなる場合があるため、貸す判断をする前に税理士か税務署へご確認ください。
住み替えの順番については住み替えは売り先行と買い先行どっち?、買い替え全体の流れは家の買い替え完全ガイドをご覧ください。
よくある質問
Q. 転勤が3年で、その後は戻る予定です。貸すべきですか?
戻る予定がはっきりしているなら、貸すことを検討する価値があります。ただし条件は2つです。金融機関から承諾を得ること、そして定期借家契約で期間を区切ることです。この2つが揃わないなら、売って戻ってから買い直すほうが確実です。
Q. 家賃はどうやって決めればいいですか?
近隣で募集中の似た条件の物件を10件ほど見て、その中央値あたりに置くのが基本です。強気に設定して空室が3か月続くと、その分の損失は家賃を数千円下げるより大きくなります。上の計算例でも、空室1か月分(12万円)は管理委託料の1年半分に相当します。
Q. 貸した家は、あとから売れますか?
売れますが、入居者がいる状態での売却(オーナーチェンジ)になり、買主は投資家が中心になります。自分で住みたい人には売れないため、価格は下がる傾向があります。詳しくはオーナーチェンジ物件の売却方法をご覧ください。
Q. 表面利回りが7%を超えるなら、貸したほうが得ではないですか?
築年数が古い物件ほど利回りは高く出ますが、同時に設備の故障・大規模修繕・修繕積立金の値上げといった支出が起きやすくなります。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、修繕積立金が計画額に対して不足しているマンションが36.6%あるとされています。利回りの高さは、その分のリスクを引き受けた対価だと考えてください。
Q. 売ると決めたら、まず何をすればいいですか?
今の価格を知ることです。それも1社ではなく複数の会社に聞いてください。同じ物件でも会社によって示す金額は違い、その幅を知らないまま1社の数字で判断すると、売るか貸すかの比較そのものが成り立ちません。
売る前に、価格の幅をつかんでおきませんか
不動産売却は、売る前の準備で決まります。売るか貸すかを比べるにも、まず「今売ったらいくらか」の見当が必要です。
- 売却手取り計算ツールを使う — 手元に残る金額の概算を3分で試算
査定額は、税額や評価額を計算するためのものではありません。その物件が実際にいくらで売れそうか、価格の幅を知るためのものです。1社だけの数字では幅が見えないため、複数の会社の意見を並べて比べることをおすすめします。
※本記事の数値は執筆時点のものです。税務・法務の取扱いは個別の事情で異なるため、最終判断は税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

