結論:残債を完済して抵当権を抹消できれば、ローン中でも売れます
住宅ローンが残っている家でも、売却はできます。条件はただ一つ、引渡しのときまでに残債(ローンの残り)を完済し、抵当権(ていとうけん。ローンの担保として金融機関が設定している権利)を抹消できることです。
このとき、完済の原資を売却前に用意しておく必要はありません。実務では、買主から売買代金を受け取るのと同じ日にローンを一括返済し、抵当権の抹消と所有権の移転を同時に行う「同時決済」が一般的です。つまり、売却代金がローン残債を上回っていれば(アンダーローン)、手持ち資金ゼロでも売却は成立します。
問題になるのは、売却代金だけでは残債を返しきれない場合(オーバーローン)です。この場合も、自己資金での補填、住み替えローン、任意売却、そして「今は売らない」という判断まで、選択肢は4つあります。本記事では、残債の調べ方から状況別の売り方まで、実務の流れに沿って順番に解説します。
まず残債を調べる:3つの確認方法
売れるかどうかの判定は「売却予想価格と残債の比較」がすべての出発点です。残債は次の方法で正確に確認できます。
| 確認方法 | 特徴 |
|---|---|
| 返済予定表(償還予定表) | 借入時や繰上返済時に金融機関から交付される一覧表。各月末時点の残高が載っている |
| 残高証明書 | 金融機関に発行を依頼する。年末調整・確定申告用に毎年10月頃に郵送されることが多い |
| ネットバンキング・アプリ | 現在残高をその場で確認できる。最も手軽 |
注意点として、ボーナス返済を併用している方は、返済予定表の見方を誤って残債を少なく見積もるケースがあります。また、一括返済時には別途、繰上返済手数料(金融機関により数千円〜数万円)がかかります。正確な完済必要額は、売却スケジュールが見えてきた段階で金融機関に「一括返済した場合の必要額」を照会するのが確実です。
残債がわかったら、次は売却予想価格です。不動産会社の査定を受ける前でも、周辺の売出事例やポータルサイトの相場情報でおおよその見当は付けられます。「予想売却価格−諸費用」が残債を上回るかで、この後の進め方が変わります。諸費用の内訳はマンション売却の諸費用 全一覧で詳しく解説しています。
アンダーローンの場合:売却代金で完済する通常の流れ
売却代金でローンを完済できるアンダーローンなら、通常の売却とほぼ同じ流れです。異なるのは、金融機関への連絡と決済日の段取りだけです。
- 不動産会社の査定を受け、媒介契約(仲介の依頼契約)を結ぶ
- 売り出し・内覧対応を経て、買主と売買契約を締結する
- 金融機関に「売却に伴い一括返済したい」と連絡し、必要書類と手続日程を確認する(連絡は決済日の2〜3週間前までが目安。金融機関によっては抵当権抹消書類の準備に時間がかかります)
- 引渡し当日、買主からの売買代金でローンを一括返済し、司法書士が抵当権抹消と所有権移転の登記を申請する
計算例:残債2,200万円の家を3,000万円で売る場合
- 売却価格:3,000万円
- 仲介手数料:3,000万円×3%+6万円=96万円、税込105.6万円
- 印紙税:1万円(1,000万円超〜5,000万円以下の軽減税率)
- 抵当権抹消の登録免許税+司法書士報酬+繰上返済手数料:約3万円
- 諸費用合計:約110万円
手取りは3,000万円−110万円=約2,890万円。ここから残債2,200万円を返済すると、約690万円が手元に残る計算です。この残りが住み替えの頭金や引越し費用の原資になります(売却益が出た場合の税金は後述します)。
オーバーローンの場合:4つの選択肢
売却予想価格が残債に届かない場合の選択肢を整理します。
| 選択肢 | 向いている人 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 1. 自己資金で不足分を補う | 貯蓄に余裕がある | 住み替え先の資金・生活防衛資金を残せるか要確認 |
| 2. 住み替えローンを使う | 住み替え先の購入が決まっている | 審査が厳しく、借入額が大きくなる。売却と購入の決済日を合わせる必要 |
| 3. 任意売却 | ローンの返済自体が困難 | 債権者の同意が必要。信用情報に影響。通常売却とは別物 |
| 4. 今は売らない | 売却を急ぐ事情がない | 繰上返済や相場改善でアンダーローン化を待つ。賃貸に出す場合は金融機関の承諾が必要 |
選択肢1:自己資金で不足分を補う
最もシンプルな方法です。たとえば残債2,800万円の家が2,500万円でしか売れない場合、不足分300万円に諸費用約95万円(仲介手数料88.5万円+印紙税1万円+抹消関係約3万円+繰上返済手数料等)を加えた約400万円の自己資金を決済日に用意すれば、通常の売却として成立します。貯蓄を取り崩す前に、住み替え先の初期費用と当面の生活資金が残るかを必ず試算してください。
選択肢2:住み替えローンで新居のローンに上乗せする
住み替えローン(買い替えローン)は、現在のローンの不足分と新居の購入資金をまとめて借りるローンです。自己資金がなくても住み替えを実現できる一方、担保となる新居の価値を超える借入になるため審査は厳しく、金利も通常の住宅ローンより高めに設定されがちです。また、売却の決済と購入の決済を同じ日に行う必要があり、スケジュール調整の難易度が上がります。売り先行・買い先行の進め方は住み替えは売り先行と買い先行どっち?で詳しく解説しています。
選択肢3:任意売却(返済が困難な場合)
すでにローンの返済が苦しく、滞納が始まっている・近い将来滞納しそうという場合は、債権者(お金を貸している金融機関等)の同意を得て市場で売却する任意売却という方法があります。競売(裁判所による強制的な売却)より市場価格に近い金額で売れる可能性が高い一方、信用情報への影響などの注意点もあります。詳しくは任意売却とは?競売との違い・流れをご覧ください。
返済に問題がないのにオーバーローンというだけで任意売却を選ぶ必要はありません。任意売却は原則として滞納状態が前提の手続きであり、通常返済ができている方の選択肢は1・2・4です。
選択肢4:今は売らない(時間を味方につける)
売却を急ぐ事情がなければ、「売らない」も立派な選択肢です。ローンは毎月の返済で確実に減っていきます。元利均等返済では返済が進むほど元金の減りが速くなるため、あと1〜2年でアンダーローンに転じるケースは珍しくありません。繰上返済で前倒しする方法もあります。なお、転勤などで家を離れて賃貸に出す場合は、住宅ローンのままでは原則不可のため、必ず金融機関に相談してください(無断で賃貸に出すと一括返済を求められることがあります)。
同時決済の仕組み:引渡し当日に何が起きるか
「売却代金で完済する」と言葉では簡単ですが、当日の段取りを知っておくと安心です。引渡し日(決済日)は通常、買主のローン取扱店など金融機関の一室で行われ、次の順序で進みます。
- 司法書士が本人確認と書類確認を行い、「この書類がそろえば登記できる」と確認する
- 買主の住宅ローンが実行され、売買代金が売主の口座に振り込まれる
- 売主はその代金から自分のローン残債をその場で一括返済する
- 金融機関から抵当権抹消に必要な書類が交付される(事前準備により当日交付されるよう段取りします)
- 司法書士が「抵当権抹消→所有権移転→買主の抵当権設定」の登記を法務局にまとめて申請する
売主・買主・双方の金融機関・司法書士の動きが1日に集約されるため、決済日の設定は金融機関の必要準備期間(連絡から2〜3週間程度)を見込んで決めます。ここは仲介の不動産会社が調整するのが通常なので、売主として大切なのは早めに金融機関へ連絡することだけです。
税金の話:損が出ても得が出ても確認すべき制度
オーバーローンで売却して損失が出た場合、一定の要件(所有期間5年超、償還期間10年以上のローン残債があるなど)を満たせば、譲渡損失を給与所得など他の所得と損益通算(相殺)し、引き切れない分を翌年以後3年間繰り越せる特例があります(出典: 国税庁 No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき)。所得税・住民税が数年にわたり軽くなる可能性があるため、損失が出る売却でも確定申告を検討する価値があります。適用期限や細かな要件は改正されることがあるため、最新情報は国税庁のページでご確認ください。
逆に売却益が出た場合は、マイホームなら3,000万円特別控除により多くのケースで税金がかからずに済みます(出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例)。いずれも個別の事情で適用可否が変わるため、最終的には税理士や税務署にご確認ください。
よくある質問
Q. ローンを完済しないと売り出すこともできませんか?
いいえ。売り出し・売買契約まではローンが残ったままで進められます。完済と抵当権抹消が必要になるのは引渡し(決済)の時点です。実務ではほとんどの売主がローンを残したまま売却活動を始めています。
Q. 残債がいくらか、不動産会社に伝える必要はありますか?
伝えることを強くおすすめします。残債額がわからないと、売り出し価格の下限(これを下回ると自己資金が必要になるライン)を設計できないためです。残債は個人情報ですが、仲介の担当者には正直に共有した方が、値下げ交渉の場面でも守るべきラインを踏まえた対応ができます。
Q. オーバーローンかどうか微妙です。どう判断すればいいですか?
複数社の査定を取り、最も低い査定額から諸費用(売却価格の4〜5%程度)を引いた金額と残債を比べてください。査定の上振れを前提に計画すると、売れなかったときに資金が足りなくなります。「頑張れる価格」ではなく「確実に売れる価格」で資金計画を立てるのが安全です。
Q. 離婚するので、ローンが残っている家を売りたいのですが。
売却の手順自体は本記事のとおりですが、名義(単独か共有か)・連帯保証や連帯債務の有無で必要な手続きが変わります。共有名義の場合は共有者全員の同意が必要です。詳しくは共有名義の不動産を売却するにはをご覧ください。
売る前に、手取り額を知っておきませんか
不動産売却は、売る前の準備で決まります。URUMAEの無料ツールなら、査定前に自分で概算をつかめます。
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※税額は個別の事情で変わります。最終判断は税理士・税務署にご確認ください。
