結論:売れます。関門は「地主の承諾」と「買主のローン」の二つです
借地権付き建物、つまり土地は借りていて建物だけが自分のものという不動産は、売却できます。ただし所有権の家を売る場合と比べて、越えるべき関門が二つ増えます。
一つは地主の承諾です。借地権の譲渡には原則として地主の承諾が必要で(民法612条)、その見返りに支払うのが譲渡承諾料です。実務上は借地権価格の1割程度が目安とされています。
もう一つは買主の住宅ローンです。土地が他人名義であるため、金融機関によっては融資に慎重になります。買える人が減れば、その分だけ価格に響きます。
そしてもう一点、多くの人が誤解しているところがあります。相続税の路線価図に載っている借地権割合は、そのまま売買価格にはなりません。この記事では、その差がどこから生まれるのかまで踏み込みます。
まず自分の借地権の種類を確認する
一口に借地権といっても、適用される法律と期間が違います。契約書に書かれた年月日で、まず大枠が決まります。
| 種類 | 根拠 | 存続期間 | 更新 |
|---|---|---|---|
| 旧法借地権(1992年7月31日以前に設定) | 旧借地法 | 建物の構造により20年・30年 | あり(借地人が強く保護される) |
| 普通借地権 | 借地借家法3条・4条 | 30年 | あり(更新後1回目20年、以降10年) |
| 定期借地権(一般) | 借地借家法22条 | 50年以上 | なし(期間満了で終了) |
| 事業用定期借地権 | 借地借家法23条 | 10年以上50年未満 | なし |
| 建物譲渡特約付借地権 | 借地借家法24条 | 30年以上 | なし |
(出典: e-Gov法令検索 借地借家法)
借地借家法が施行されたのは1992年(平成4年)8月1日です。それ以前に設定された借地権は、契約が続いている限り旧借地法の規律が適用され続けます。古い借地ほど借地人の立場が強く、その分だけ借地権としての価値も高く評価される傾向があります。
売却の場面で決定的に効くのは残存期間です。定期借地権の残り15年と、旧法借地権で更新が見込める状態とでは、買主から見た価値がまったく違います。
借地権割合と、実際の売買価格が違う理由
国税庁の路線価図には、路線価の数字の横にアルファベットが付いています。これが借地権割合です。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
(出典: 国税庁 路線価図の説明)
商業地ほど高く、住宅地では60%前後、郊外では30〜40%が多くなります。
ここで注意したいのは、この割合が相続税・贈与税の財産評価のために定められたものだという点です。市場の売買価格を保証するものではありません。
実際の売買では、三つの要素が価格を押し下げます。まず買主が限られること。住宅ローンが通りにくく、現金で買える人か、借地権に理解のある金融機関を持つ買主に絞られます。次に、承諾料などのコストが乗ること。売主が払う譲渡承諾料に加え、買主は将来払うことになる更新料・建替承諾料・条件変更承諾料まで織り込んで指値してきます。最後に、地主との関係が読めないこと。地代の改定や増改築の可否は、買主にとって不確実性そのものです。
結果として、第三者に単独で売る借地権は路線価ベースの評価額を下回ることが珍しくありません。逆に言えば、この差を埋める方法が底地との同時売却です。
承諾料の目安と、承諾が得られないときの手順
譲渡承諾料は、借地権を第三者に譲渡することを地主に認めてもらう対価です。借地権価格の10%程度が実務上の目安とされていますが、法律で決まった額ではありません。あくまで交渉です。負担するのは売主である借地人が原則ですが、契約や交渉次第で買主と分担する例もあります。
売る側が把握しておくべきなのは、譲渡承諾料だけではありません。
| 場面 | 内容 | よく聞く目安 |
|---|---|---|
| 譲渡承諾 | 借地権を第三者に売るとき | 借地権価格の10%前後 |
| 建替承諾 | 買主が建物を建て替えるとき | 更地価格の3〜5%前後 |
| 条件変更承諾 | 木造から鉄筋コンクリートへなど用途・構造を変えるとき | 更地価格の10%前後 |
| 更新 | 契約更新のとき | 更地価格の3〜5%前後 |
いずれも法定ではなく慣行上の目安です。買主はこの先いくら払うことになるかを計算して指値してくるため、売る側も先に確認しておくべき数字になります。
承諾が得られないときは、裁判所という道がある
地主が承諾しない場合でも、あきらめる必要はありません。借地借家法19条は、譲渡によって地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾が得られないとき、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めています。これを借地非訟といいます。
裁判所は、借地権の残存期間、従前の経過、譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮し、必要に応じて借地人に財産上の給付を命じます。実質的に承諾料に相当するものです。
ただし同条には地主の介入権も定められています。地主が裁判所の定める期間内に申し立てれば、地主自身が優先的に借地権と建物を買い取ることができます。地主に買い取ってもらうこと自体が目的なら、これは悪い結果ではありません。
借地非訟は時間も費用もかかります。まずは話し合いで承諾を得るのが最短であることは変わりません。
高く売る本命は「底地との同時売却」
借地権と底地は、別々に売るとどちらも安くなります。買主から見れば、どちらも制約付きの権利だからです。
これを同時に売って買主に完全な所有権として渡すのが同時売却です。買主は住宅ローンを組めますし、建替えも自由になります。買える人が一気に増えます。
更地価格3,000万円・借地権割合60%の土地で比べると、次のようになります。
| 売り方 | 想定される結果 |
|---|---|
| 借地権だけを第三者に売る | 評価上は1,800万円だが、買主が限られるため下回りやすい |
| 底地だけを第三者に売る | 評価上は1,200万円だが、地代収入目的の買主に限られ大きく下回りやすい |
| 借地権と底地を同時に売る | 更地に近い価格で売れる可能性。借地権60%・底地40%で按分すると1,800万円と1,200万円 |
同時売却で最大の論点は代金の按分です。借地権割合を出発点にしつつ、実際には残存期間、地代の水準、これまでの経緯で調整されます。売買を始める前に按分の考え方を書面で合意しておくこと。ここを曖昧にしたまま買主を探すと、契約の直前で崩れます。
同時売却が難しい場合の選択肢もいくつかあります。地主に買い取ってもらう方法は、底地と一体になるため地主にとっても合理的で、最初に打診する相手として自然です。逆に自分が地主から底地を買い取って所有権にしてから売る方法もあります。資金は要りますが、一般の売却と同じ土俵に乗れます。土地の形状と面積によっては、借地権と底地を一部ずつ交換してそれぞれが小さな所有権を持つ等価交換も現実的です。早さを優先するなら、借地権に強い買取業者という出口もあります。価格は下がります。
税金と実務で落としやすい点
借地権を売った利益は譲渡所得として課税されます。所有期間が売却年の1月1日時点で5年を超えていれば長期20.315%、5年以下なら短期39.63%という基本は、所有権の不動産と同じです。
借地権で特に多いのが、取得費が分からないケースです。親から相続した借地で、いつ・いくらで権利を取得したのか不明という状況は珍しくありません。その場合は概算取得費として売却代金の5%を使うことになり、税額が大きく膨らみます。対処法は取得費がわからないときの対処法にまとめています。なお、支払った譲渡承諾料は譲渡費用として控除できるのが一般的です。領収書と契約書は必ず保管してください。個別の判断は税務署か税理士に確認を。
実務面では、先に整えておくべきものが三つあります。土地の境界は、借地であっても買主が範囲を明確にしたがるため、隣地ともめている土地は売りにくくなります(確定測量の費用と期間)。地代の支払い記録は、滞納があるだけで契約解除リスクとして扱われるので、通帳の記録を揃えておきます。借地契約書の原本が見当たらない場合は、地主と合意書を作り直せるかを早めに確認してください。
相続した借地を売る場合は、建物の相続登記を済ませていないと売却手続きに進めません。加えて、地主への通知や承諾の取り直しが必要になることがあります。手順は相続した実家を売る方法で解説しています。
よくある質問
Q. 地主に売ると伝えたら、高額な承諾料を要求されました。応じる必要はありますか?
譲渡承諾料は法定ではなく交渉です。相場から著しく外れた要求に必ず応じる義務はありません。話し合いがまとまらないときは借地借家法19条の裁判所の許可という手段があります。ただし関係が悪化すると売却そのものが長引くため、まずは冷静な交渉を優先してください。
Q. 借地権は買取業者に売れますか?
売れます。借地権や底地を専門に扱う業者が存在します。承諾交渉ごと引き受けてもらえるのが利点ですが、その分価格は市場価格より下がります。時間と価格のどちらを優先するかの判断になります。
Q. 定期借地権のマンションを持っています。売れますか?
売れますが、残存期間が短くなるほど価格は下がります。期間満了時に建物を取り壊して土地を返す義務があるため、買主は残り年数から逆算して値付けします。売却を考えるなら、残存期間が長いうちのほうが有利です。
Q. 建物が老朽化していて、再建築の承諾も得られそうにありません。
建替えができない前提だと、買主は大きく限られます。地主に買い取ってもらう交渉か、訳あり物件を扱う買取業者が現実的な出口になります。似た構造の問題は再建築不可・訳あり物件の売り方でも扱っています。
Q. 仲介手数料は借地権でも同じですか?
同じです。売買代金を基準に、400万円超なら代金の3%+6万円+消費税が上限になります。計算方法は仲介手数料の計算式と上限早見表をご覧ください。譲渡承諾料は仲介手数料とは別の支出です。
売る前に、手取り額を知っておきませんか
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※承諾料の目安は法定のものではなく、実務上よく用いられる水準です。税額や借地契約の解釈は個別の事情で変わります。最終判断は税理士・弁護士にご確認ください。
